、構はん理窟ぢや。なあ君、君は紙芝居であるけれどもが、君が辺見甚次君だろ、アハハハそんねな事、どうでもええわい、さ、ハーモニカ吹いちくれ! 吹けつ!(言はれた男は既に、待合は満員なのでその外の盛土の上に、グツタリと腰をおろしてゐる。弱つたなあと口の中で言つて仕方なくハーモニカを二吹三吹する)ア、コリヤサツト、マユがさがれば、百姓の目が釣り上る(デタラメに歌ひながら、ズツコケて来たマユ袋を頭から引つかぶつて踊り出す)こんな踊り見た事あんめ! マユ売る阿呆に、マユ売らん阿呆、同じ阿呆なら飲まなきや損ぢや。スツトコドツコイ、ドツコイシヨと!
クミ あれまあ、アハハハハハ! ハハハ!
女車掌 妻恋行きが発車しまあす!(と呼びながら、左手から出てくる。橋の上へ来て)妻恋行きにお乗りの方ありませんかあ? 妻恋行き、ありませんかあ? はれ、まあ!(と袋をかぶつて踊つてゐる姿を認めて、ノコノコ近付いて来て見てゐる)あれえ、こん爺さんだよう、篠町からこつち車の後さぶら下つちや、賃金半額にしろと云ひ通してとうどう乗らんかつた人!
仇六 あにをつ!(袋から顔を出して)よう、べつぴんさん! あにを、憎まれ口を叩くでい! お前だろ、そんダンブクロ見てえな制服の下から、赤いユモジぶら下げて澄まして篠町まで行つた車掌ちうのは!
女車掌 好かん! 馬鹿つ! はーい、妻恋行きが出るが、乗る人無あですか?
クミ 父う、乗つて戻ろうよ。
笠太 あにを云ふ!(車掌に)乗る人あ一人も無えさ。無え無え! 私等あ帰る時が来れば歩いて帰らあ。
女車掌 チツ、車あ人が乗るために定期で通つてるもんだよう。昨日から四度通つて一人もお客が無あとは呆れたわい。こんな事ならば、定期やめるぞ。ケチツ臭え!
六平 ちよいと聞くが、昨日か今日、篠町か高井の方から此方へ乗つて来た客で洋服を着た人無かつたかな?
女車掌 へい? 洋服?
笠太 まだ若い男だがの?
女車掌 有りますよ、今日、ホンの先刻だあ。
六平 な、な、な、有るのか? 篠町から?
女車掌 いいえ、高井からだけどねえ、眼鏡かけて、革のゲートル巻いた三十四五の人でしうが?
笠太 ど、ど、どこで降りたね、そん男?
女車掌 ホン、そこの松の木の宿で降りて、飯ば食ふには何処がええと聞いたから、私が松島屋ば教えてやつたで、食つてんだろ。
笠太 こら、いかん。さ、さ、(と駆け出しかけ
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