く言っている。私にも何かの責任が生まれるかもしれないが、しかし私の本意は、この人たちに、もう一度立ちなおってほしい気持から出発したものである。しかしそれだけに、私の言葉は、かえってシンラツになってしまったとしても、やむを得ない。そこで――。
この人たちが戦争から受けたキズだ。たしかに、キズはキズであった。しかし、たいしたキズでは無かったようである。或るものは、もう治ったらしい。或るものは、上にアマ皮が張って、もう雨や風もしみない。或るものは、キズの上に「進歩的政治思想」のバンソウコウを張りつけて、ノコノコ歩きまわりはじめたらしい。したがって、大体において一様に、もう「治療」の必要は無いかのようである。したがって又、読者が作品から受取るものとしての治療も、ほとんど失われかけているのも当然であろう。
そして、それはそれでよいのであろう。この事自体に不満をとなえるべき理由は無い。自分の事にせよ人の事にせよ、無事なのは、なによりである。キズは浅い方がよい。また、早く治るに越したことは無い。だから、それはそれでよいのである。
しかし、それなら、はじめ、なぜギャアギャア泣いた? 手術室から出
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