しい。すくなくとも、意識的無意識的に、スタンダールやバルザックなどが代表している流れに竿さしていると思っているらしい形跡がある。だから、こう質問しても不当では無いと思うのである。あなたがたの作家活動の中で、あなたがた自身の了見が、どんな姿でどのへんに位置しているのかを自ら問うたことがあるのか? と。
 いや、しかし、こう言うと、彼等の或る者は「金がほしいから書くだけだ」と答えるかもしれない。(悪いことに――そして彼等のためには都合の良いことに)バルザックが「金がほしいから書く」という意味の事を言っている。
 また、或る者は「書くことがおもしろいから書くんだ」と答えそうだ。(悪いことに――そして彼等にとっては都合の良いことに)スタンダールが「私は私をたのしませるために書く」という意味の事を言っている。
 まことに、まことに、プロメシウスが肝臓を食わして手に入れて来た火で、パンパンがタバコを吸いつけるのだ。祖師が血みどろになって持ちかえった皮ごろもで、小僧どもが鼻を拭くのだ。バルザックの「金がほしいから書く」とスタンダールの「たのしむために書く」の一語の裡に、どれだけの自我の追求と確立の煉
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