て、その一人の方が「人でなし」になってしまったり、五百人の狂人の中に正常者が一人で立っていると、時によって正常者の方が「キチガイ」になってしまったりする事があることも、私どもの参考になりますし、そして、これもまた、恐怖をそそることがらですから書いただけです。
悲劇は、ありがたいものではありません。恐怖は消えた方がありがたいです。つまり陥没は埋められる方が望ましい。というよりも、意識的無意識的に、私たちは埋める仕事をせざるを得ないのです。陥没を陥没のままに捨て置いて、その上に立っていることはとても耐えきれることではありません。すくなくとも、私は耐えきれません。私が前述のようなエッセイストとしての自身の不適格や不利を押し切って、このエッセイを書きつづけるのも、この埋めようとする努力の一つであるようです。
私の考えも、その考えから起きる努力も或いは見当ちがいかも知れません。見当ちがいではないとしても、これくらいの事が、すこしでも埋めるタシになるかどうか私にはわかりません。しかし、私はこうせざるを得ないのです。陥没の深淵の底に小さな石ころ一つでも落しこんで見ざるを得ないのです。深淵の中から
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