ひどい恐怖におそわれたことがあります。それは一身の安危に対する恐怖ではなく、もっと深くもっと強い、この人たちと自分の間には正常な意味で言葉が通じないという実感から来る恐怖でした。また、たくさんの狂人の中にまじって運動会を見たことがありますが、その時も笑い騒いでいる狂人たちの中に一人ションボリ立ちながら、私の感じた恐怖も、一身の危険というような事ではなくて、この人たちと自分との間に相互理解のカケ橋がさしあたり全くないという意識から来たものだったのです。二つながら、ただの単純な恐怖とはくらべものにならぬほど恐ろしいものでした。実は、二つながら、「なあに、こいつらは、普通の人間のことなぞわからんケダモノだ」と思いさえすれば、その瞬間からまるで恐ろしくもなんともなくなるような恐怖であるために、尚のこと、恐ろしかったのでした。
 今の日本の文芸家のどんな人たちをでも、闇のカツギ屋や、狂人たちにたとえようという気は私にありません。ただ、私どもの間の悲劇や恐怖の性質が、これらにすこし似ているような気がしたので書いただけです。同時に、三百人の闇屋の中に闇屋でない唯の人間が一人まじっていると、場合によっ
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