小説の裏の浅さを自ら物語っていることになりはしまいかと思われる点だ。もしそうだとすれば、当人にとっても捨ててはおけない事であろうが、それよりも、われわれにとっても、ほとんど一大事になる。なぜならば、そうなれば、われわれは一人の卓抜な作家を失うと同時に、一人の大インテリらしい者が実は「こごと幸兵衛」――自身もその中で生きている同時代者全部に対して責任を負おうとしないで、ただエゴイスティックな批判だけをする批判者――であったことを知ることになる。つまり一人の大インテリを失うことになるからだ。
 武者小路実篤。これは巨木だ。こんなのが、どういうわけでわれわれの間に生えてしまったものか、それを見ていると、われわれ自身がはずかしくなって来るような巨木である。しかしそれでいて、このような巨木を持っていることは、われわれの誇りである。私は或る高原の、あたり一面カン木と草ばかりのまんなかに、どこからどうして飛んで来た種子から生えたのか、黒々とそびえ立っているモミの大木を見たことがあるが、その時の気持が武者小路を眺める気持に似ている。場所がらもわきまえずに、ムヤミと大きく育ってしまったものだ。見ていると
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