です。ひとつマジメに考えて見ましょう。

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 私の友人に、風俗作家さんや肉体派さんたちの事を「コブタハ」と呼ぶ男がいます。「小鳩派かね?」と私が問うと「コブタ。小さい豚、小豚派作家だ」と言うのです。
 それが穏当でないような気がしたので私が抗議を申しこんだら、こう答えました。「なにを言うんだね君は。これは愛称だよ。見たまえ、彼等の姿とそのしている事は小豚に最もよく似ている。先ずアイキョウがある。にぎやかだ。マメだ。ふとっている。どんな所にでも鼻を突っこむ。もちろん鼻息は荒い。その荒い鼻息で一尺先きの事は何から何までかぎつけるが、六尺先きの事はまるでわからないから勇敢である。それに仲間同志より集まってブウブウ鳴き立てる習慣を持っている。気をつけたまえ、以上のことは動物にとって弱点ではないんだよ。いや、往々にしてそれらは、長所であり強味だ。どっちにしろ柵の中に生きて行かなければならないのならば、柵の中の悪臭のために胸を悪くしてふさいだりしているよりも、そんなものを気にしないでよいような鼻を持って、景気よくやって行く方がトクだ。そのへんの計算もよく似ている。似ていない点は、小豚は太らせてツブすと食料になるが、小豚派作家たちが何の役に立つか、まだハッキリしていないところだけだろう」
 なかなか、ウガッタところもある言葉でした。しかし要するに一片の毒舌に過ぎません。私は毒舌はきらいです。第一、ふまじめでいけません。私は、いつでも、すこしでもたくさんまじめに、すこしでもよけいにスナオになろうとしている人間なので、右のような空論に耳を傾けることを欲しません。いわんや小豚派などという呼称にくみすることは出来ません。
 しかしながら、人間の想像力や感受性というものの、何とヒ弱で動きやすく暗示を受けやすいものでしょうか。私は、それ以来、風俗作家や肉体派さんたちの作品を読んでいても論文を読んでいても、それらの一人々々の姿勢や全体としての動きなどを遠くから眺めている時も、チョロチョロブウブウと動きまわっている小豚や小豚たちの姿を私の心の眼の外へ追いやることが出来なくなってしまったのです。つまり右の友人は、私の想像力を荼毒してしまったのです。彼を私は呪います。呪うための一つの方法として、彼が「小豚派作家たちが何の役に立つかまだハッキリしていない」と言った、そこの所を私流にスナオな言葉に修正することによって彼の暴論を粉砕し、あわせて風俗氏や肉体さんたちを弁護しょうと思います。即ち「何の役に立つかまだハッキリしていない」などとは、ウソだと私は思うのです。
 つまり、前に言った。商品学で見れば、役に立たないだんではないのです。商品としてこれらの作家たちの作品は成り立っているのです。しかも非常に見ごとに成り立っています。誰のためにも、何のためにも、どんな役にも立たないものが、こんなに見ごとに商品として成り立つ道理がありません。風俗氏や肉体さんは意を強うして可なりです。私どもにしましても、われわれ自身の好悪のために、それらが商品として成り立つだけの客観的な好条件を持っているという事実をまでも否定するならば、それは風俗氏や肉体さんに対する不公平であると同時にわれわれ自身のがわの認識不足というべきです。
「俺たちはすくなくとも、メイカアだ。作り出しているんだ。何一つ作り出しもしない奴が何を言うか」という意味の自信を、いみじくも、或る肉体派さんが公言しています。全く同感であります。
 終戦後[#「終戦後」は底本では「「終戦後」]、鉄カブトを改造して飯ガマを製造販売してボロもうけをした男が「うっちゃって置けば鉄カブトなんか廃品になるんだ。それをカマに改造して売り出して、人のために役立てようとしているんだ。もちろん俺ももうかってるがね。作ってるからもうかるのはあたりまえだろうじゃないか。グズグズ言うな気にいらなきゃ買わないどけ」と豪語しているのを私は聞いたことがあります。もちろんその時も私は同感したのでありました。
「粗製濫造品であろうとなかろうと、とにかく一カ月に七篇や八篇の小説を私は作ることが出来るしそれがドンドン売れるのである。くやしかったら、それだけ多量生産して売って見たまえ」と或る風俗派さんは思っているらしい証拠があります。これまた全くその通りで、大賛成であります。「うちのタイコ焼にドロやイモが混っているとか、生焼けだとか、くさす奴がいるが、とにかく半日に五百個売れるんだ。くやしかったら、それだけ売って見ろ」と或るタイコ焼屋が怒っていたことがあります。もちろんその時も私は彼に大賛成したのです。
 まったくのところ、商売のじゃまをするのは善くない事だし、悪趣味です。しかし、その商売の性格や商品の質をギンミして見ることは、別にさしつかえないだ
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