性において平和愛好者なのです。だのに、戦争は何度でもどこででも、はじまって来たのです。嫌っている喧嘩をツイやってしまうのです。ですから、「戦争はよしましょう」と絶えずお互いに言っている必要もあるわけですが、同時に、その程度の事を言っているだけでは実際の効果はないとも言えます。とくに現在はその程度のことを言うに止まっていてよい時ではないと思われます。希望を持ち合うことは大切ですが、その希望が決意に裏づけられないでよいものならば、誰でもどんな希望でも持ち得るわけで、それは単なる夢にしか過ぎないでしょう。必要なのは十だけの希望に十だけの決意が裏打ちされていることではないでしょうか。「戦争はよしましょう」と言う個人や団体などは、その言葉に相応するだけの決意を持っていなければならぬと私は考えます。私の疑問はそれに関してなのです。
今まで私は、いよいよ戦争が起きそうになったら、また、戦争が起きてしまったら、自分は[#「自分は」に傍点]どうするか、自分の団体は[#「自分の団体は」に傍点]どうなるかについてハッキリした意見を聞いたことがないのです。そのことなのです。現在「戦争はよしましょう」と言ったり、それにさんせいしたりする事ほどやさしいことはありますまい。しかし、起るかもしれない戦争に反対して、実際的に自分および自分のぞくしている団体の態度を決めて、それを公表公約することは、それほどやさしい事ではありません。しかしそれをわれわれは敢えてする必要と義務があるのではないでしょうか。これは世界のために役に立つだけでなく、われわれインテリゲンチャの属性である一般的な「非行動性」からの脱却にも役立つだろうと思うのです。また、終戦後われわれの間で問題になって、スコラ哲学風にガチャガチャと談じられただけで何が何だかハッキリしたものは生まれて来なかった「主体性の問題」も、実は、この辺から具体的な答えが出て来るのではないかと思いますが、いかがでしょう? 既にもう、「それについて、俺はどうするか? あなたはどうするか?」という形で問題にしてもよい時だし、そしてそうであってこそ道理にかなった答えが出て来るでしょうし、それらの答えが横にひろくつながって多くの人々が一致した場合に、はじめてわれわれはホントの希望を持つことが出来るのではないでしょうか?
それを、私の知っている限り、誰もがあまりしていません。それがヘンに思われるのです。私の眼がとどかないのでしょうか? または私の頭が悪すぎて疑問に思う必要のないことを疑問にしているのでしょうか?
もちろん、私自身においてはこれは既に問題ではありません。私の態度は既にハッキリしているのですから。私は今後戦争が起きそうになったら、また、起きてしまってからも、それに反対します。あらゆる戦争に対してです。誰がどんな理由でする戦争でもです。反対の手段にあらゆる暴力と武器を取りません。また、誰かが賞賛したりまた誰かがジャマしたりしたとしても、そのような事に関係なく、反対します。そのために仮りに何かの圧力が私の上に加えられることがあっても、その圧力がひどくなって私をして沈黙せざるを得なくさせるまで、つづけたいと思います。ほかの人はどうなのでしょうか? あなたはどうなんですか? それをハッキリしないで一般的に平和論議ばかりしていて、人々はどうしようと言うのでしょうか? 私の問いは愚問ですか?
次ぎに、この事についての第二の疑問は、今平和運動に参加または主導している知識人の中に、非常に多くの共産主義者やそれらの支持者がいることは、あなたもご存じの通りです。ところで、共産主義というものは理論的にも実際的にも或る種の戦争を肯定する、すくなくとも、やむを得ないものとする主義なのです。その主義を信奉する人たちが、「戦争はよしましょう」というスロオガン――われわれの普通の常識ではそれは「あらゆる戦争をよしましょう」と取るのが一番妥当だし、現に一般がそう取っている。――の下で主導的に運動しているのは、私には矛盾かまたは虚偽のように思われるのです。
それが「やむを得ない矛盾」――つまり人間として誠実に考えた結果として引き起きた矛盾――ならば、われわれはこれを深くとがめてはならないと思います。しかしその場合にも、当人がその矛盾の中のどの要素が自分の本心であるかを公に示してくれる必要と義務があります。それをしないで一方において共産主義者でありながら一方において「あらゆる戦争」に反対する平和運動に参加しているならば、仮りにそれがどんなに誠実な意図に発してなされているとしても、客観的に自他を深く毒し、平和運動全体を虚妄のものとして終らせる原因の一つになると思います。
もしまた、虚偽であるならば――もちろん共産主義者自身は多分それを必要な現段階的戦
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