やポスタアを見るようにツマラなく、タイクツであるのも、そのためではないかと思います。また、中野重治さんなどが、なかなか小説が書けないのも、実はそのためではないでしょうかね。なぜなら、この中野さんという男は一種すぐれた芸術的神経を持った男のように私には見える。だから、現在みたいな政治およびイデオロギイとの関係に自分を置いとくと、芸術家中野は苦しくてたまらんのじゃないだろうかと思われるのです。そして、それは、今言ったような原因からだと思われます。それからまた、宮本百合子さんの小説がみんな、かなり上手な「タカラさがし」みたいな組立てになっていて、そのタカラさがしの手やタカラの在り場所を知らない物や気づかない間は相当におもしろいが、それらを知ってしまうと、おもしろく無くなってしまうのも、そのためのような気がします。タカラさがしの手やタカラの在り場所と私が言うのは、もちろん、唯物弁証法的創作方法や社会主義的リアリズムのことです。それから、その他のたいがいの左翼作家や左翼詩人や左翼評論家の作品が、唯単に一つの公式をいろいろにちがった人間や事件や事物に適用してみたに過ぎないと言ったふうの安易さと単調さとタイクツさを持っているのもそのせいのようですし、また、若い勤労者が自然発生的に非常にすぐれた作品を生んでも、それがいったん左翼的な文学グループに呑みこまれて意識的に左翼的な作品を書きはじめるとトタンに生長が停止してしまう事実もそれのようですし、また、比較的若い世代の共産党員の作家などが、「政治活動や経済闘争をやる時は共産党で、作家活動をするときはナンデモナイ――つまり非共産党でやる」と思ったり言ったり実行したりしているのも、そのせいのように私には思われるのです。
A わかりました。現象としては、あなたの言うような事が或る程度まで、たしかに在ることを私も認めます。しかしそれの論理づけについては、にわかにあなたにサンセイできない。とにかく、あなたの気質とそれから物の考え方は、実に根深いところの左翼に対する反感に出発しているようですねえ。
B そうでしょうか。しかし、一体全体、私が左翼に反感を抱かなければならぬどんな必然性や必要や利益が私に有るのでしょうか? それらは私に無いです。むしろ好感を持つ必要性や必要や利益の方が多いのではないかと自分では思っています。いずれにしろ、反感を抱いたか
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