らいになってしまうのは、どういうわけ? さっきも、奥さんが私にだまって取り出して、たこうとなさってるのよ。
三芳 そりゃ君、時によって内でも切らすことがあるんで、そりゃ君、こうしていっしょに生活していりゃ、それくらいお互いに助けたり助けられたりするのは当然で、それくらい、君――つまり連帯性というのはそこんとこさ。
ツヤ 助けたり助けられたりとおっしゃいますけど、私は助けられたことは一度もありません。自分で食べる物は、配給でたりないぶんは買い出しに行くし、無い時は水だけ飲んでがまんしてます。
三芳 どうも、なんだ、病こうもうに入ってるなあ、エゴイズムが! とにかくなんだよ、たとえばだなあ、津村君という人は、今この、進歩的な陣営の中で実に大事な男なんだ、それぐらい君にもわからんことはないだろう。つまり日本の――つまり人民にとって、つまり人民を幸福に導いていく仕事の上で、かけがえのない人だよ。その人に時折食事をあげるためにだなあ、僕らが多少の不自由をがまんするくらいはだなあ――
ツヤ 時折じゃありませんよ、今月になってからだって十三度です。あの人だって、自分の内で配給受けてんですから、内で食べればいいのよ。でなきゃ、それを持って来ればいいのよ。
大野 へえ、かんじょうしてあるのかい、ヘヘヘ!
三芳 わからんなあ、どうも! 忙しい人だから一々内へ帰ったりしちゃおれないじゃないか。愚劣というか愚まいというか、ホッテントットだなあ、まるで! 君にゃわからんのか、われわれが、津村君たちをだな、大事にしている理由が?
ツヤ そりゃ、先生は、トクをなさるからでしょう?
三芳 ト、トク?
ツヤ 私はべつにトクになりませんから。
三芳 話あ通じない。まるで、猿だ!
大野 ヘヘヘ! ハハ!
三芳 北海道へ帰るなり、友だちの所へ行くなり、勝手にしたまい。君みたいにエゴイスチックになってしまえば、人間、つまりがパンパンにでもなる以外に道はないんだ。
ツヤ (平然と)パンパンだって、いいわ。
大野 パンパンで、いいか。いやあ、この――当人が少しも恐ろしいと感じていないだけに、実に恐ろしいねえ!
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(その時、奥の方が急に騒々しくなり、「はあ、いいえ、いいんですの、どうぞお通りくだすって」などと久子が叫ぶように言っている声。ツヤ子に向ってなおも何か言おうとしていた三芳が、そっちの方に耳を取られて、立ちかけるところへ、浮々と昂奮した久子が小走りに入って来る)
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三芳 ……どうしたの?
久子 来たのよ、あんた!
三芳 え? 誰が?
久子 「群民新聞」の記者! 例のそら、ホラサ、こないだ、あなたが講演[#「講演」は底本では「講満」]したでしょう――あの事で記事にしたいから、チョットお目にかかりたい。つまり、インタアヴューよ!
大野 へえ、そりゃ――
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(言っているところへ二人の新聞記者が入って来る。一人はカメラをさげている)
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久子 さ、どうぞ、こちらへ(椅子をすすめる)
記者 や、どうも。
大野 (自分のかけていた椅子をカメラマンにすすめる)どうぞ、おかけになって!
三芳 やあ……(わざと不きげんそうな顔で)いらっしゃい。三芳です。
記者 (名刺を出して)「群民新聞」の文化部の者です。こちらは写真班の者で。先生の方では御存じないでしょうが、私の方では、方々でよく存じあげております。特に先日の京日講堂での先生の報告演説を――
三芳 やあ、あれを聞かれちゃったのか。いやどうも、あんときは昂奮しちゃって、すこし醜態を演じてしまって――
記者 とんでもない! 映画の方面であすこまで突込んで論じられた人は、これまでないもんですから、実にわれわれとしてもカイサイを叫びました。どうもなんですね、大きな映画会社に属している人たちは、なんといっても当りさわりが多いし、ヘタをすると自分の首にまでひびいてくるというわけでしょうか、腹では思っていても正直なことをなかなか言ってくれませんで。
三芳 いや、たしかにそれはあります。それに問題自身がなかなかデリケイトだからねえ。
記者 やっぱりなんですねえ、イデオロギイ的にハッキリした立場に立った方でないと、最後のところで、明確さを欠くことになるようですね。やあ、これはどうも。どうぞおかまいなく! (これはその時までにいちはやくウイスキイのコップを二つ持って来て、ついでくれた久子に向って)……それでですねえ、今日は、先生の御意見をもう少しくわしくうかがって記事にしたいと思いまして――
三芳 そいつは弱ったなあ。僕など、いわば映画界の野武士というところで、ハッハ! それに、戦犯問題についちゃ、あまりキレイなことも言えない人間ですしねえ(ホントに弱ったような
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