出そうじゃありませんか。それで、いけなければ、あきらめた、と。
大野 (それを聞かないフリをして、ツヤ子に)そいで、どこの基地にいたんだね、その大将?
ツヤ ――フン……
大野 ハハハ、ヒヒ! (ヒョイと三芳を見て)まあ、いいや、もうめんどくさくなった、十円といこう。フィート十円出してもらう。いやいや、先方がそれでウンと言うかどうか、話してみなきゃ、わからんが、とにかく、めんどうくさくなりよった。
三芳 ……しかたがない。ですが、ホントに品はたしかでしょうね? ちかごろエマルジョンにひどいのがあるし、時によると、まるっきりカブってるのが有るからなあ。
大野 じょだん! なんだったら、現像の人をよこしてテストしてくれてよろしい。
三芳 そう、じゃ、あるいはそうお願いしましょうか。しかし、なんだなあ、大野さんも、いつのまにか良い商売人になったなあ。
大野 じょ、じょうだん言っちゃ、いけない! だから、私はただ見るに見かねて話の中つぎをしてあげてるだけで、なんども言う通り――
三芳 まあ、まあ一つ。(とウィスキイをつぐ)しかし、なんじゃありませんか、以前ほど羽ぶりはきかないかもしれないけど、しかし気らくな点から言やあ、今の方がいいんじゃないかな。
大野 やあ、それも、しかし、なんとかして食いつないでいかんならんので、しかたなしにウロウロしてるわけで――以前のことを思うと、これで涙もこぼれない。――それに、こんなこともつまりが、あちこち落ちこぼれが、まだ有る間だね、ホンの半年か一年だろう(ウィスキイを飲む)
三芳 そんなことあないだろう。ところで今の品物は、いつ受渡しを? 実はこっちは急いでいるんだけど。
大野 そりゃ、二三日中に、いずれ、なんだ、また私が来る。第一、そんな単価で先方がウンと言うかどうか、これから行って伝えてみるんだから――
三芳 ハハ、金は現金で、いつでも用意させとくから、なるべく早く――
大野 努力してみましょう。ところで、あんたんとこじゃ、器械の方はどうなの? 実はパルボが一台にミッチェルが一台――ただしミッチェルの方は少々ガタがきてるんで、そのままでは使い物にはなるまいが――なんだったら、或る所に――
三芳 ほしいなあ。実あ、新会社になれば、あと、どうしても一二台ほしいんだ。
大野 いや、この際だもの、どうせ使うアテはなし、話しようで[#「話しようで」は底本では「話しょうで」]極くこの――
三芳 あたってみて下さいよ、なんだったら? 内の所員をいっしょに見に行かしてもいい。
ツヤ あのう(と、出しぬけに言う)私、今夜、北海道へ帰ります。
大野 う――?
ツヤ (三芳に)一度、北海道に帰って来ます。
三芳 ……そうかね。そりゃ君の自由だろうけど――しかし家内には相談したのかね? どうせまた、この家にもどって来るんだろうからそのへん、あんまり自分勝手になにされても――
ツヤ いいえ、お宅へはもどらないの。こんだ上京する時には、友達んとこに行くことになってるから。
三芳 そうかね。……そりゃ好きなようにしたら、よいだろうが――しかし急にまた、どんなわけで――?(ツヤ子返事をしない)どういうんだい? え?、
ツヤ ……気がヘンになります。
三芳 え? 気がヘンに――?
大野 ハッハハ、はじまったね。内にいた時もチョイチョイこれ式だった。ヘンになるんじゃなくって、はじめっから、少し君あヘンじゃないかね。ヘヘヘ、なんだなあ、アブノーマルというんだなあ。ハハ、第一、君、さっきから見ていると、そうやって、米の袋を腰にぶらさげてだなあ、とにかく、ツヤ君みたいなベッピンさんのすることじゃないね。
ツヤ ヘドが出たくなるのよ。
三芳 ヘドが? ……なにかね、胃が悪いの?
ツヤ とにかく、北海道に帰るわ。
三芳 好きなようにするさ。そりゃ。しかし、なんだぜ、どこへ行ったって、今のように困難な生活で、君みたいにそんな、つまり、いっしょに生活している人間との共同生活においてだなあ、この連帯性だね。つまり、ほかの者と仲良く助け合ってだな、暮していこうとする気がなくては、困るんじゃないかね?
ツヤ ええ。
三芳 社会的な教養がまるでないんだから、むつかしいことがわからないのは無理もないけど――とにかく、その病的なところを、なおさんといかんなあ。
ツヤ 私、病的でしょうか?
大野 ハッハハ、ヒヒ!
三芳 病的だよ。第一、君、たとえば、その米の袋にしたってだな、そんなふうに寝てもさめても、ぶらさげているなんて君、少しキチガイじみすぎるよ。
ツヤ だって、これは私のぶんですもの。
三芳 そりゃわかってるさ。君のぶんを、誰も無理やりに取って食おうとはしないんだから、なにもそんな――
ツヤ だって、誰も取って食わないのが、台所に置いとくと、すぐに半分ぐ
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