の方に耳を取られて、立ちかけるところへ、浮々と昂奮した久子が小走りに入って来る)
[#ここで字下げ終わり]
三芳 ……どうしたの?
久子 来たのよ、あんた!
三芳 え? 誰が?
久子 「群民新聞」の記者! 例のそら、ホラサ、こないだ、あなたが講演[#「講演」は底本では「講満」]したでしょう――あの事で記事にしたいから、チョットお目にかかりたい。つまり、インタアヴューよ!
大野 へえ、そりゃ――
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(言っているところへ二人の新聞記者が入って来る。一人はカメラをさげている)
[#ここで字下げ終わり]
久子 さ、どうぞ、こちらへ(椅子をすすめる)
記者 や、どうも。
大野 (自分のかけていた椅子をカメラマンにすすめる)どうぞ、おかけになって!
三芳 やあ……(わざと不きげんそうな顔で)いらっしゃい。三芳です。
記者 (名刺を出して)「群民新聞」の文化部の者です。こちらは写真班の者で。先生の方では御存じないでしょうが、私の方では、方々でよく存じあげております。特に先日の京日講堂での先生の報告演説を――
三芳 やあ、あれを聞かれちゃったのか。いやどうも、あんときは昂奮しちゃって、すこし醜態を演じてしまって――
記者 とんでもない! 映画の方面であすこまで突込んで論じられた人は、これまでないもんですから、実にわれわれとしてもカイサイを叫びました。どうもなんですね、大きな映画会社に属している人たちは、なんといっても当りさわりが多いし、ヘタをすると自分の首にまでひびいてくるというわけでしょうか、腹では思っていても正直なことをなかなか言ってくれませんで。
三芳 いや、たしかにそれはあります。それに問題自身がなかなかデリケイトだからねえ。
記者 やっぱりなんですねえ、イデオロギイ的にハッキリした立場に立った方でないと、最後のところで、明確さを欠くことになるようですね。やあ、これはどうも。どうぞおかまいなく! (これはその時までにいちはやくウイスキイのコップを二つ持って来て、ついでくれた久子に向って)……それでですねえ、今日は、先生の御意見をもう少しくわしくうかがって記事にしたいと思いまして――
三芳 そいつは弱ったなあ。僕など、いわば映画界の野武士というところで、ハッハ! それに、戦犯問題についちゃ、あまりキレイなことも言えない人間ですしねえ(ホントに弱ったような
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