、そんなふうに言われると。私は誠心誠意考えた結果言ってるんですよ。つまり、なんじゃないか、軍その他のイントク物資は、けっきょくのところ、もともと国民全部、つまり人民のものじゃありませんか。それをだな、この、人民の手に取りもどし、人民の幸福のために使うということは当然のことで――つまり、それですよ。そうなんだ。それを信じてもらえないのは、私は、この、――今さらになって、心にも無いことを言って――いや、ホントに、私は、できることなら、この胸をまっ二つに切り開いてですねえ、見せてあげたいですよ! 正直、しんけんに、つまり人間として、スッパダカになって、言っているんですよ、津村さん! (津村はだまっている)
三芳 (それを引き取って)しかしそいつは世の中がこんなふうになったので、急にそんなふうに言っているだけで、ほんのこの間まで、あんたがたは、やっこさんたちのために、そして、やっこさんたちのおかげで、さんざん働きもし、うまい汁も吸ってきたんだからなあ。現に、ぼくらも、君たちから、ずいぶんいじめられたんだからなあ。急に信用しろは無理じゃないかなあ。
大野 私らが、いつ、あんたがたを、いじめたりしました? 今になって、そ、そんなことを言われるのは、実に、実に心外だ。だって、私は君をはじめ君たち一同を、あらゆる機会にかばって、できるかぎりのことをしてきたんだ。正直言うと、私はあんたがたをあまりにかばい過ぎて、自分の立場をあぶなくしたことも二三度ある。内務省へんでは、大野はありゃアカじゃないかと言われて――
三芳 そりゃ、あんたのお世話になったこともありますよ。忘れはしません。感謝してるんだ、その点は、フフ、感謝してますよ。だってそうしなきゃ、しばってしまうというんだからなあ。殺してしまうというんだからなあ――。いやいや、口に出しちゃ、君たちはそんなことは一言も言ゃあしない。しかしあの時代の空気の中にチャンとそれだけのものはあった。それを君たちは百も承知していた。そいつを利用した。自分たちがエテカッテなことをしたり、利益をつかんだり、それから僕らをつかまえてアゴで使うことに利用したんだ。しかも口の先きでは、君たちのためを思うからといったような紳士的なことを言ってね。つまり、腹芸さ。そこいらのかげんは、実に、何ともかんとも、うまかったねえ。
大野 そ、そ、三芳君、そんな君!(バラバラ
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