に戻れば、たちまち――
ツヤ 挺身隊に出ようと思うんです、あたし。
三芳 ……うむ、その気持はわかる。そりゃ、わかるけど――だけど困ったなあ、そいつは。もともと大野さんが不自由なすってるんで――つまり、僕もいろいろやっかいになってるしね――僕の方から言い出して君をつれて来たんだしねえ――いまさら、弱ったなあ。
ツヤ だって……毎晩、アンマをしたりするの、いやだわ。
三芳 え? アンマ?
ツヤ フトモモの所まで、もませるんですのよ! そこへ、又、さっきの将校の人が来たら、どんなことされるかしれたもんじゃないわ。もう、イヤッ! それに、毎日――こいつにお湯を使わしたり、カンチョウさせたりしなきゃならない。もう、イヤァー!(くめ八の頭をポンとたたく)
くめ ウー!
ツヤ なにが、ウーだ、チンコロ!
三芳 おい、おい君、そんな――(立って、ツヤ子の腕をつかんで、とめにかかる。ツヤ子両腕をふりまわして、三芳にさからう)
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(そこへビールびんを四五本両手にさげた大野と薄田がもどって来る)
[#ここで字下げ終わり]
大野 ……(思いちがえて)いよう!
薄田 どうしたい?
三芳 いや、この――なんです……
くめ ウー。
大野 ほら、くめ八が、おかんむりだ。(椅子にかける)この子は、人間の、この男女の情を解しておってね、つまりヤケるんだな。私んとこでも、さんざん、悩まされたもんだ。
薄田 とんだところで、ノロケを聞かされる! ウァファファ(椅子にかける)
大野 いやどうも!(ツヤ子にビールを注げと手で命じる。ツヤ子、センを抜き、卓上のコップにつぐ。大野、卓上のチーズの包みを見て)……ええと、これは――?
三芳 はあ、ホンの少しばかりですが、田舎から送って来たもんで……
大野 すまんなあ、そりゃ。――ところで、三芳君、君んとこの仕事はその後どうなったね?
三芳 はあ、いや、事態がこんなふうになって来まして、あちこちとアイロだらけでして……いえ、撮影の方は、せんだって商工省の方から取ってくださったフィルムで、その後二本ばかりすましてありますが、なんしろ、ネガがまるきりないもんで――
大野 そうかね。……(薄田に)この大将は、小さな記録映画の製作をしていましてね、私が口をきいてあげて軍器や文部省などの仕事も二つ三つしております。まあ主として軍器や食糧関係の――
薄田
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