`がこちらに向く。シィヌの裸体の坐像)
ヴィン 見ろ! シィヌの言う通りだ。子供のラクガキみたいな、うすっ汚い――(スーッとあたりが暗くなる)
テオ そんなことはありませんよ!
ヴィン (ほとんど泣き声)俺は三十だ。だのに、この通り、まだデッサンひとつ、ちゃんとやれない。……死んだ方が、ましだ。どうすればいいんだよ。え、テオ?
テオ そんな、そんな、気を落しちゃ、いけない! 兄さんには描けるんだ。よく、ごらんなさいこの絵を。ようく、ごらんなさいよ、この絵を。
[#ここから4字下げ]
既に真暗になってしまって、ヴィンセントの姿もテオの姿も、室内の影も全部見えなくなり、「悲哀」の素描だけがクッキリと浮びあがって見える。……隣室でヘルマンのまた泣き出した声が弱々しく低く聞え、続く。……
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
3 タンギイの店
[#ここから4字下げ]
軽快な浮々とした音楽。
パリの町の、繁華の場所からチョット引っこんだ、古いクラウゼル街の、ペール・タンギイの絵具屋の店内から街路を見たところ。店と言っても、ごくささやかな、浅い内部で、一番手前に茶テーブルと二、
前へ
次へ
全190ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング