烽「て来る)
テオ 兄さん。……(なんにも言えず、そこの椅子に兄をかけさせる)
ヴィン ……僕は、まちがっているんだろうか?
テオ そんな……兄さんは、まじめに、なにしたんだから……
ヴィン 駄目だ俺は。……ただ、可哀そうなんだ僕はシィヌが。……先刻ね、モーヴとワイセンブルーフが、あれを侮辱した。いや、モーヴは別に、そうしようと言う気があってしたことじゃないけど。……そいで、そのためにシィヌは、ああなったんだ。……僕はどうすればいいんだろう?
テオ ……私には、なんにも言えない。どうしろと兄さんに言うことは出来ません。……しかし、兄さんが悪いためじゃない。兄さんが悪いんじゃない。
ヴィン いいや、俺が悪い! ……俺は実に、自分のわきの人間を、みんなダメにしてしまう。疫病神のような人間だ俺は。現に、絵を描くために、お前にこんな迷惑をかけたり、――(言っているうちに、ちょうど前に置かれた全紙の素描に目が行き)こ、こんな、うす汚い絵を描くために!(ガッとその板を掴んで、片手でその木炭紙を引き裂こうとする)
テオ 兄さん、何をするんだ!(と、そのヴィンセントの手を掴む。その拍子に板が動いて、素
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