A六日前にパリから同じような手紙をモーヴに出してある。もしかすると、その二つを持ってモーヴがここへ来て、手きびしいことを言やあしないか。……すると、同じような手紙を二通も読まされたら、兄さん、こたえ過ぎやしまいか、こいつは、いけないと思ってね……実はそれが心配になったもんだから、こっちへ廻る気になって、そいで停車場から馬車を雇って、モーヴの所へも寄らないで、急いで来たんです。
ルノウ あんたが、するとパリにいらっしゃる弟さんだね?
テオ やあ。(ヴィンセントに)手紙のことは、あんまり気になさらんで下さい。
ヴィン モーヴは、そして、絶対にシィヌと別れろと言うんだ。別れなければ今後一切めんどうは見ない。……だけど、テオ、僕として、それをどうしてウンと言えるかね? そしたら、モーヴは怒って帰ってしまった。そりゃ、お父さんや君に始終心配ばかりかけて、僕はすまないと思う。しかし――
テオ いいんです、いいんです。お父さんは、とにかく、ああして牧師なんですからね、手紙に書くと、どうしてもこの、道徳的なむつかしいことになってしまって、この、厳格な調子になる。そこは兄さんも理解してやらないといけない
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