ニ思うんだ。僕の手紙は、ただ兄さんのことをくれぐれもよろしく頼むと言う意味の手紙で、しかし相手があの調子のモーヴだから、こっちの書きようも少しきびしくなるんで――
ヴィン ありがとうよテオ!(テオの手を何度も握りしめる)ありがとう! 実はあの手紙を読まされて、君から見捨てられやしないかと思った。お父さんは、まあ、仕方がない。しかし君から見捨てられたら僕はどうしていいかわからなくなる。ありがとう!(涙声になっている)
テオ いいんですよ、そんな、――いいんですよ兄さん。(ボロボロ泣いている。それをテレて笑って)馬鹿だなあ、兄さんを僕がどうして見捨てることができるんです? 兄さんは、これから立派な画家になる。そうですよ。そして、画家の仕事は戦いだって、ミレエの言葉を、手紙に書いてよこしたのは兄さんだったじゃないですか? アンダーラインまで引いてね。ハハ。
ルノウ いいねえ! 兄弟衆の仲の良いと言うもんは!(彼女流に、しんから感嘆して)そうですよ、ここのゴッホさんは、腹ん中のきれいな人ですからね。弟さんもまた、良い弟さんだねえ!
テオ (ヴィンセントに)こちらは、あのう――?
ヴィン 食料品
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