N、バタ、玉ねぎ、ジャガイモ、そいからニシンと、みんな先月から溜っていて、みんなで四十フランあまり、それにパン代の立て替えが二十フラン、しめて六十フラン。いいかね? 時々クリスチイネがやって来ちゃ引っかけて行くヂンのお代は勘定に入れなくてもですよ。いつ来ても、もう二、三日すれば払うからとか何とか言って、あたしん所だってお前さん、慈善事業で食料品や野菜を扱っているんじゃないんですからね。
ヴィン わかっている。わかっているから、今度金が来たら、必ず――
モーヴ (椅子からスッと立って)ゴッホ君、これで話は片付いたと言うものだ。君は君の好きにやるさ。ただ今後、私の所には一切来てくれたもうな。では。(サッサと出て行く)
ヴィン (それに追いすがって)待って下さい、アントン、待って下さい。(振り切ってモーヴは戸外へ消える)
ルノウ どうしたんだよう!
ワイセ (これも立ち去りかけながら)さては、お前さんとこだね、ハトバの近くで、食料品のほかにもいろいろ商なっているルノウと言うのは?
ルノウ (ジロジロと相手を見て)そりゃあね、世の中あセチがろうござんすからね。なんでも売りますよ、儲けにさえなり
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