Aどうでも良い! ハタが困ろうと、親兄弟が泣こうと、うっちゃって置け。誰と寝ようと、梅毒になろうと、餓え死にしようと、そんなことはどうでもいい。絵さえ描いて行けばいいんだぞ!
ヴィン いいえ、僕は、とてもそんなことは出来ません。僕はこんなに弱虫で、みんなに迷惑ばかりかけているのが、とてもたまらないんです。早く、僕の絵が売れるようになれば、少しは――
モーヴ だからさ、そんなふうに思っているのが嘘でなかったら話は簡単じゃないかね。おやじさんもテオ君も、君が絵を描いて行くことそのものに反対はしていない。むしろ援助しようとしている。わしも同じだ。だから――
ヴィン しかし僕はシィヌと別れるわけには行きません。あれは僕と一緒になってから、やっと変な男たちを相手にしなくなりましたし、酒も飲まなくなった。それをまた、僕が突き放すと、どうなると思うんです?
ワイセ ハハハ、だからそう言うミシュレ好きの感傷主義を捨てろとわしは言っているんだよ。画家は絵のためには一切のものを踏みにじり、捨てなきゃ、いかん。たかが女一人が何だね?
ヴィン でも、僕には現在、全世界よりもシィヌ一人の方が大事なんです。僕は間
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