フ罪ではない。ヴィンセント、君はこれでいいんだよ。この調子でグイグイ、ゴツゴツと描きたまい。ほかの絵かきが美しいなどと言うものを信用するな。自分がホントに美しいと思うものだけを、それだけを、描くんだ。
ヴィン (しかし彼はそれまでの話を聞いていなかったのと、父と弟の手紙を読んで非常にガッカリしているために、ワイセンブルーフの言葉の意味あいがわからない。苦しそうな、ションボリした声で)ありがとうワイセンブルーフさん。しかしまだ僕にはデッサンがチャンとやれないんです。
ワイセ これでいいんだよ。自分の眼を信用したまい。
ヴィン ……(モーヴに)アントン、それで、僕はどうすればいいんです? こんなにまで父に心配をかけ――母も僕のことをあんまり考えていたんで病気になったそうだし、それにテオはこうして「兄さんのことは、私の力に及ばないような気がします」と書いて来ているし……まったく、僕はロクでなしの、みんなの重荷だ。どうすればいいか、僕は、それを思うと苦しくって――
モーヴ だから、私の言う通りだな――
ワイセ ゴッホ君、聞くな! 君は絵かきだ。絵かきは絵さえ描いていればいいのだ。その他のことは
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