[ヴ 絵ではないな。
ワイセ それでいて、この中には、何かが在る。どんなものが来てもビクともしない、恐ろしいような、何かがある。泥だらけのジャガイモか……ふん……だから、これで、絵なんだ。
モーヴ ふん。
ワイセ ゴッホ君が君の言うことを聞けば、また絵の指導をしてやると言ったが、どっちにしろ、指導などするのはやめたまい。指導してはいかん。また、指導はできないよ君には。
モーヴ どう言う意味だね、それは?
ワイセ 君は良い絵かきだ。わしは好きだ。しかし、こんな絵を描く奴には――そいつの将来については――(と、先程からの二人の会話を全く耳に入れないでテーブルの所で手紙を読みふけっているヴィンセントに目をやり、一歩そちらへ進んで、再び山高帽をぬいで)脱帽! ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ!(ていねいに敬礼する)
ヴィン (気づいて、びっくりして)え? なんです?
モーヴ からかうのも、良いかげんにしたまい。
ワイセ からかっているのか、わしが? ハッハ! モーヴ、君は今までの絵の伝統にとりつかれているために、今の所、わからないような気がしているだけだよ。伝統の久しきにわたれば、すべてそれだ、君
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