ヘなんにも言わない――
ワイセ だが、案外に良いからだをしとるじゃないか。第一、ちょっとこう、荒れたような肌がいけるよ。五人からの子持ちとは、思えんな。ゴッホ君の好みもまんざらではない。見直したよ。うむ! そもそもこの、女の身体と言うものは――(フッと言葉が切れてしまう。ちょうどヴィンセントが描いていた全紙のシィヌの素描に目が行って、口がお留守になったのである。やがて、そのほとんど完成に近い絵の方へ三、四歩近づいて行き、妙な顔をして見ている)……
モーヴ (椅子にかけて)しかしねヴィンセント、私は君の従兄だ。それに君の両親やテオから、君の絵の勉強の指導をしてくれと頼まれている。つまり私には責任がある。それでこれまで、さんざん、いろんな忠告をしつづけて来た。だのに君は一つも聞いてくれん。石膏像のデッサンをもっとやった方がいいと言うと、アカデミスムはごめんだと言って、私に喧嘩を吹っかけて、石膏像を粉々に叩きこわしたね? いやいや、喧嘩のことはいいさ、とがめようとしているんじゃない。石膏像だって、それほど惜しいとは思わん。アカデミスムはごめんだと言うのもわかる。君も知っているように私自身アカ
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