B
ヴィン 聞えなかった。
ワイセ ごあいさつだ。ひひ!
シィヌ ……(恥じて、大急ぎで、膝の上の衣類で身体を蔽いながら)いらっしゃい。あたし、ちょっと[#「ちょっと」は底本では「ちよっと」]、あの――(困って、後ろさがりに、直ぐ上手につづいている小部屋「寝室」の方へ引っ込む。それを、にがり切って見送っているモーヴ)
ヴィン どうぞ掛けてください。(二人に椅子をすすめる)
モーヴ (突っ立ったまま)ヴィンセント、君は絵を描いているのかね、色ごとをしているのかね?
ヴィン え? そりゃ――
ワイセ 始まったね、モーヴ先生の訓話か。ハハ、そりゃわかりきっているじゃないかね。絵を描く暇々に色ごとをやっておる。または、色ごとをする暇々に絵を描いておる。同じだ全く。そして、それで何が悪い、え、モーヴ?(言いながら室内をブラブラ歩いて壁に立てかけてあるカンバスや半出来の素描などを一枚一枚見て行く)
モーヴ (それには相手にならないで、ヴィンセントに)人にはそれぞれのやり方がある。私も画家だ、人のやり方にうるさく干渉しようとは思わない。なんでもいいから、君が絵の勉強を一所懸命にやってさえくれれば、私
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