c痛い。
ヴィン ……うむ?

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その時、ドアが開いて、画家ワイセンブルーフ(五十歳前後)と、ヴィンセントの義理の従兄で同時に絵の師である画家モーヴ(四十二、三歳)が入って来る。ワイセンブルーフは零落した天才画家と言ったふうの、極端に投げやりな身なりの、顔つきも言葉つきもソフィスト流に皮肉で活気がある。モーヴは堂々たる身なりの、落ちついた人柄。――入って来るや、いきなり鼻の先におかしな形の抱擁を見せられて、二人ともあきれて、言葉も出ないで、突っ立って見る。やがてワイセンブルーフは、ニタニタと笑い出す。モーヴが左手のステッキで、戸口の板をコンコンと叩く。音に気がついてヴィンセントとシィヌが振り返る。
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シィヌ あら!
ワイセ (朗唱の調子で)昼は日ねもす、夜は夜もすがらくちづけの、か――さはさりながら、もうそこらでやめんかねえ。
ヴィン モーヴさんもワイセンブルーフさんも、いつ来たんです? ちっとも知らなかった。
ワイセ ちっとも知らないは、ひどかろう。いくらノックしても開けてくれないじゃないか
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