フ男のことを思い出していたのよ。あんたとこうして居ながらね。そう言う女。だから――
ヴィン そんな、それは、今までのことはどうでもいいんだ。問題はこれからだよ。ね、頼むから、シィヌ、頼むから、もうルノウのおかみさんの所へは行かないと約束してくれ!
シィヌ だって、そんなこと言ったって、お金がこんなになくっちゃ――それにおっ母さんの方の仕送りだってどうすればいいの? あんた、四人の子をおっ母さんにおっつけたまま、そんな――
ヴィン だからさ、それは今に必らず僕が引き取って、絶対にチャンとなにするから――大丈夫だ! ね、シィヌ、僕にまかしといてくれ。僕は正式にお前と結婚するつもりだ。
シィヌ だけどさ――そんなこと言ったって――(ヴィンセントを見ている内に、相手を理解出来なくなっている)……変な人だわねえ、あんたって――
ヴィン ルノウのおかみさん所にまた君が行って、変な男なぞとナニしたら、僕あ、殺しちまう。
シィヌ そりゃ、あんた……(ヴィンセントからゆすぶられて、されるままに頭や髪をグラグラさせながら、不思議なものを見るように相手を見ている。……互いに全く理解し合えない男と女の抱擁)…
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