Bン これは消すのに要るから、かんべんしてくれ。その代り僕はひとかけらだって食べはしないから。残ったら、みんなお前にあげる。
シィヌ しょうがないわねえ。(パンを噛み噛みポーズ。隣室で幼児が泣き出す)
ヴィン ああ、ヘルマンが、眼をさました。チョット行っておやりよ。
シィヌ なに、いいのよ。近頃、夜と昼をとっちがえてしまって、ゆんべもロクに寝てないから、うっちゃって置けば夕方まで寝てる。(幼児の泣声やむ)
ヴィン ……君は、自分の生んだ子に、どうしてそうじゃけんに出来るんだろうな?
シィヌ フフ、あんたはまた、自分とは何の縁もない私の連れ子を、どうしてそう可愛がれるの?
ヴィン そうさな、どうしてだか、自分にもわからないね。可愛いんだ。……そういうタチなんだろう。さてと……(絵に没入して行く、ガスガスガスと木炭の音。遠くで汽船のボウが鳴る)
シィヌ ああ、船が入ったな。
ヴィン うん?……(うわのそらで描いている)
シィヌ ハトバじゃ、いっぱい人が出てるよ、きっと。
ヴィン うん。……(描きながら半ば無意識に)いっぱい、人が、出て……人は、黒く見える。……肌の色は、ここん所がホンの少し
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