\枚でも送って見ろと言って来てる。テルステーグさんも水彩画なら買ってやろうと言うんだ。良い絵さえ描けるようになりゃ、金はいつでも手に入るんだから――
シィヌ だのにあんたは、スケッチや水彩画なんぞサッパリ描こうともしないで、そんな汚ならしい真っ黒な絵ばかり描いているんだもの。
ヴィン 頼むから、クリスチイネ! 僕はサロン絵かきになろうとしているんじゃない。僕はホントの人間が描きたい。ホントの自然が描きたい。どんなに真っ黒で汚なくても、ここん所を卒業しないと駄目なんだよ。ね、頼むから、もう少し描かしてくれよ。じゃ、歌は歌ってもいいから、足を動かすのだけでも止めてくれ。
シィヌ いいわよ、じゃ。早くしてね、すこし寒くなって来ちゃった。
ヴィン すぐだ。(再び画面に向い、喰いつくような眼でシィヌと絵とを見くらべる)
シィヌ そのパンを少しおくれよ。おなかが空いちゃった。
ヴィン え、パン?
シィヌ そのさ、木炭を消すのさ。
ヴィン あ、これか……そう、じゃ……(と手元のパンのへりの所を割って、シィヌに投げてやる)ほら。
シィヌ なあんだ、へりの所ばかりじゃないのよ。中の軟かい所、おくれ。
ヴ
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