アっちがイロシゲだそうです。
ヴィン イロシゲ。……うむ。(唸って、その浮世絵を睨んでいる。不意に立ってツカツカと、その縁の前に行き、噛みつくように顔をくっつけて見て)どうしてこんな単純な、こんな深い色が出せるんだろう? え? この絵具は一体これは何だ? こんなに明るい、そして落ち着いた色は? え? ……日本へ行きたい。俺は日本へ行きたい。……(サッと自分のカンバスの所にもどって来て、自分の絵を睨む)……そう、落ち着きがない! ……たしかに、アルモニイがない。(唸っていたが不意に絵具箱から大きなパレット・ナイフを取り上げて、生がわきの画面をガスガスとけずり取ってしまう)
タン あ! なにをなさるんだ、ゴッホさん!
ヴィン フフ、なあに。初めから、やり直すんだ。小父さん、動いちゃ、いけない。(手早く、新しい絵具をパレットにしぼり出し、並べる)
タン しかしあなた、頭が痛いんじゃありませんかねえ?
ヴィン セルリアン・ブルー。もっと明るいカドミュームをくれ。そいから、ブルー・ド・プルッスと。ええい、くそ!(とパレットの端にこびりついた絵具を指ではじき飛ばし、カンバスとモデルをキッと睨んで筆
前へ 次へ
全190ページ中126ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング