ネ顔をしているんだね? つまり、僕と言う人間を君はこんなふうに見ているんだね?
ゴー まあ、そうだね。
ヴィン すると、君はやっぱり僕を気ちがいだと思っているんだ。だって、この絵の僕の顔は、これは狂人の顔だ。
ゴー そう取りたければ取ってもいいが、僕はそうは思わない。
ヴィン そうか。せっかくだが、「向日葵」と取り替えるのは、ごめんだ! (再びイライラしはじめている。ツカツカと自分の絵の方へ戻って来てそれを睨みながら)ふむ。君は今、俺が君の描き方を取り入れていると言ったがそれはどう言う点かね?
ゴー いいじゃないか、もう。取り入れたっていいし、そんなもの以上に君独特の所が出ているんだから。
ヴィン 嘘をつけ! 君はこれを模倣だと思っているんだ。自分の技法を模倣しているんだと言いたいんだ。そうだろ? そう言う傲慢な人間だ君と言う男は! なるほど君は俺なんかよりすぐれた画家だ。それは認める。しかし俺にだって、いくらまずい絵かきの俺にだって、俺にしきゃ描けないものはあるんだ。
ゴー だから、それはそれでいいじゃないか。
ヴィン 言って見ろ、卑劣野郎! どこがどんな風に模倣なんだ? 言え!
ゴー (ムカッとして)そうか。そんなら言う。模倣だって言うんじゃないぜ。影響だ。聞きちがえてもらいたくないよ。この、ここん所のエロウだとか、もちろん全体の構図も、特にバックの効果、そいから、この壺のカドミュームの輪郭など、君はどっから持って来たんだ? え? みんな僕の理論からの影響だ。そうじゃないか。
ヴィン ……(全く蒼白になり、卒倒する直前のような姿で石のように立っている)
ゴー 批難してるんじゃない。誰だって人の影響は受ける。現に僕だって、(肖像画を指して)向日葵の描き方は君の行き方で行ってる。だから、それはそれでいいんだ。ただ僕が言いたいのは、君は人からの影響に対してあまりにスナオ過ぎる。無抵抗すぎる。もう、そんな必要はないのに、つまりもう既に君は独自の芸術家になっているのに、あんまり正直に他からの――
ヴィン (ゴーガンの言葉を全く聞いていない)……(無言で眼を据えて、スーッと洗面台の方へ行き、その隅にのせてあったカミソリを掴んで戻って来て、刃を出すや、いきなり「向日葵」のカンバスをガスガス、ガスガスと切り裂く)
ゴー な、何をするんだ! こら――(ヴィンセントに飛びかかって、その腕を掴む)ホントに気が狂ったのか!
ヴィン 離してくれ! この絵は、君になぞ渡さないぞ!(カミソリを持った手を振りまわす)
ゴー あぶない!(その手をピシッと打つ。カミソリは室の隅へ飛んで行く。なおもあばれようとするヴィンセントを背後から羽がいじめにする)落ちつけ、ヴィンセント! 馬鹿!
ヴィン (酔いと昂奮としめ上げられているため、既に言うことに脈絡がない)くしょう! 俺は駄目だ! ダニだ! テオに厄介になっている価値がない! そうだ、へへ。人真似なんだ! 俺の絵は人真似だ! そうだよ、そうだよ、ポール! お前さんは偉大な画家だ、天才だよ、畜生! 放せ! 俺はな、もう絵なんか描くのよして、ラシェルの所へ行くんだ、耳を持って行ってやる! 放せと言ったら! (しきりともがくが、ゴーガンの強い腕でしめられているので動けない。そのうち体力が尽きたのか不意にクタッとなって、ウウ、ウウと泣くような唸り声を出す。口からヨダレをたらしている)
ゴー (抵抗がなくなったので、びっくりして)どうした? おい?
ヴィン (ほとんど失神している。ゴーガンの足元にクタクタとくずれ折れそうになりながら、うわごと)うう、うう……テオ、許してくれ。許してくれテオ! ううん。
ゴー しっかりするんだ!(相手が発作のようなことを起していることを見て取り、倒れこみそうなヴィンセントの身体をグッと抱えあげ、どうしようかと、あちこち見まわした末に、階上の寝室を見上げ、やがてヴィンセントを抱えて、階段の方へ行き、ゆっくりそれを昇って、寝室に入り、ヴィンセントをベッドに寝せる。ヴィンセントはグッタリして意識がないらしい。……それをジッと見おろしていたが、やがてその額に手を当てて、そのまま眠るらしいのを見すましてから、寝室を出て、いったんドアをしめるが、また開け放って、階段をおりて来る。室の中央まで来て、階上を見あげ、ヴィンセントが寝ているのでホッとして、しばらくジッと立っている。切られた「向日葵」のカンバス。……気がついて、カミソリの飛んだあたりへ行き、床の上を見まわすが、見つからぬ。なおもその辺を捜すがないので、あきらめて、テーブルの所へ来て、椅子にドッカリと腰をおろし、再び階上を見る。……それから目の前の壺にさした向日葵を見るともなく見ていたが、やがてテーブルに両肱をつき、両手で顔を蔽うて、動かなくな
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