当時あった雑誌の一つで確か武侠世界という雑誌で表紙の絵を懸賞募集していることを知ったので急いで描いて送ったが、まさかと思っていると次の月のその雑誌の表紙にどこかで見たような絵がのっていると思ったらそれが自分の絵で、びっくりしていると賞金が送ってきた。当時の金としては多額のものでそれに十八金製のエバーシャープの副賞がついていたように覚えている。その金でかねてほしいと思っていた書物や絵具などを買いこんだ上に、かねておごってもらうばかりの友達たちに今度はこちらがチャンポンやまんじゅうをふんだんにおごってやって一週間くらいで金の方は使ってしまった。当時中学の絵画の先生から愛されて私だけはクラス中で特別に優遇され、年一回県庁で催される六人の画家たちに交って私一人が作品を出品する資格を与えられたりした。その時代の大人の画家たちとも二三知り合いになったりして、いずれそういう人たちからゴッホの話を聞いたり画集を見せてもらったに違いない。ゴッホの絵を初めて見た時分は非常に驚いたに違いないが、今からそれを思ってみても格別それほどいちじるしいことが起きたようには感じない。まるで水が低い方に流れるように、自分
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