生れたものではなくて、ずっと以前からだ。
なぜだろうと考えても理由はよくわからない。第一ゴッホの絵を複製で見たり生涯のことを知ったのがいつだったか覚えていない。もともとすべてのことについての年月日についての記憶力が薄弱な人間だが、それにしてもこれほど強い影響を自分に及ぼしたゴッホとの最初のめぐりあいのことをこれほど忘れてしまっているのはチョット不思議だ。そうしてそのことがまた、ヒョイと気がついてみたら自分のイトコがすぐにそこに立っていたのに気がつきでもしたように、ゴッホへの親近感の深さや自然さの証拠になるかもしれない。
私は少年時代から青年時代へかけて非常に絵が好きで、人のかいた絵をみるのを好み自分でも水彩画を描いた。ことに中学の一年二年三年あたりの時代では夢中になって絵をかいた。主として自分の身辺の自然を写生した。今思い出してみると面白いことに私が生れて初めてまとまった金をかせいだのはその当時で、自分のかいた絵によってである。私はひどく貧乏で中学の学費だけは親戚の者たちからわずかづつ支給してもらっていたが、いつもほとんど金は持っていない。それが書店の店頭で雑誌を見ている間に、その
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