。
森山 すまんなあ、お初穂の御しようばんになるなんぞ。
[#ここから2字下げ]
(一同、茶をすゝり餅を食う気配)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
りき ……そんで、なにかや、次郎の相談つうのは何だつけよ?
次郎 あとで言わ。
りき もうかまわねえ、言つて見ろ。
次郎 ……おれ、家にいてもしよう無えから、東京に出ようと思つてよ、そんで――
新一 俺が反対したんだそいつに。いや、ただ東京へ出るならいいけど――
[#ここから2字下げ]
(そこへ、いきなり、犬がほえるような声で、はじめはどうしても泣いているなどとは聞えない声で、喜十が手離しで泣き出す)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
喜十 おう、おう、おう! うわあ!
サダ あれ、どうしやした、喜十のおじさん?
せん 喜十さんよ! どうしただ?
喜十 おう、おう、おう!
りき どうしたよう、出しぬけに、こうれ!
森山 喜十さん、どうしやした?
喜十 うう、俺あ、へえ、どんな悪いことばしやした? うう、だのに、俺のこと、俺んちのこと、村中でお前、どこさ行つても、喜十さ、お茶がへえつたから、一杯のんで行けと声をかけてくれる家あ、たつた一軒も無えだあ。うう、つれえぞ、ばさま! こうして、それが、ばさまんちへ久しぶりに来やした。茶あ飲め、餅食えだ。俺を人間あつかいにしてくれるの、ここんちだけだあ、んだから、おらあ……
[#ここから2字下げ]
(一同シーンと黙りこんでしまう)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
りき ……そうかや。
森山 まつたく、無理ねえんでやんすよ、うむ。
次郎 喜十のおじさんがホントじやと思う! だらず? まちがつているのは、村のそやつらだ。芹沢の金五郎なんつ奴、捨てて置くこと無えだよ。がまんにがまんしてるのに、いじめにかかる奴とは、戦わねばなんねえ、と俺あ言うんだ。そうだねえか! しかけて来られる戦さなら立たざならねえ! それで立たなかつたら、そいつは腰抜けだ。卑劣野郎だ。そいじや、そうよ、国も亡びるぞ! 俺あ、へえ、喜十のおじさんの身方にならあ。おじさん、やりなよ! かまうこたあ無えから、芹沢だろうと村の奴らだろうと、ゲンノウで叩き割つてやれ。なあに、そんで死んだら死んでもいい
前へ
次へ
全17ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング