でねえすか! そんな、そんなつれえ目を、そんな耻をしのんで生きてるよか、死んだ方がええよ!
新一 又言わあ! 直ぐそれだ次郎は。コーフンしてムチヤ言うが、そう簡単に行くもんか。
次郎 だつて、新ちやん、お前は喜十のおじさんに同情しねえのか? 黙つて放つといていいと言うのか? へへ、そうかもしれんな。なんぜ、再軍備にや反対だと言うかんなあ、そいでどつかの軍隊が、日本へ攻めこんで来たら、手をあげて、さあ、さあ取つて下さいちつて待つてると言うからな。
新一 なにを言う? それとこれとは別だねえか!
次郎 別だねえよ! 大きい小さいの違いこそあれ、家のこともタンボの事も国のことも同んなじだ。だらず? 芹沢の金五郎つうのは喜十のおじさんの方へ侵入して来た奴だ。
新一 おじさんの問題は問題で、村会へ持ち出すなり、裁判所に訴え出るなり、そのほか、なんとかすれば、やりようはあるんだ。だのにそれと国の軍備の問題とを、いつしよこたに混同して、んだから軍備は必要だ、んだから戦争はやむを得ないなんどと言うのは、愚劣だよ。そんな考えを持つてるもんが、まだ居るから、見ろ、元の軍人だとか右翼の連中が又ゾロゾロ這い出して来てるんだ。
次郎 それとこれこそ、話あ別だい! 元の軍人や右翼なんぞ引つこんどりや、ええ。俺あ、これからの俺たち自身のことを言つてんだ。第一新ちやんはおじさんの問題にやりようはあると言うが、村会や裁判所に、なんと言つて、持ち出すだ? そのほか、やりようは有ると言つたつて、もうこれまでに、やれる事はみんなやりつくして、どうにもこうにもしようが無くなつたんだぞ。それでも先方じやイジメるのよさねえ。そんでこうして、ここさ来てよ、おじさん泣いてんだぞ。おじさん泣いてんだぞ!
新一 だからよ、だから、俺が言うのは、この事と国の軍備の事をいつしよこたにして考えるが間ちがいだと言つてるまでだねえか。
次郎 同じじやねえかよ。今後日本がほかの国に侵略されたら、軍備無かつたら、どこへ訴えりやいゝんだ? 訴えてもどうにもならなかつたら、、どうすりや、いいだ?
新一 まあ、聞け。今あちこちで、一軒の家なら戸じまりが無えと泥坊がへえる、その戸じまりが軍備だなんて言う者が相当いるが、次郎の考えは結局はそれだ。そいつは、よその国はみんな泥坊だと決めてかかつたムチヤクチヤ議論だぞ。今の世界はそんな一つの国が理
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