から、それもいいと眼えつぶる法もあらあ。村の衆のことよ、俺の言うなあ。金五郎に種え分けてもらつたり、中にや金え握らされたり、それでなくてもあやつは須山の旦那あ笠に着て顔が良いから、それにオベツカする、みーんな俺んちのことアダをしやがら!
森山 かげじや、しかし、喜十さんの方に同情しているもんも相当あるよ。
喜十 かげで同情してくれたつて、なんになりやす? この秋あ、お祭りにも俺だけノケモンだ。よそのうち同様に寄附しようとしても、ことわつて来る。配給もんのフレも俺とこだけ抜かして廻すのがしよつちゆうだ。田植えの加勢も、申し合せて、俺んちだけは一人も出てくれねえ。な! 道で行き合つても、こつちが挨拶しようとすると、みーんなソツポ向かれて見ろ。一家五人、村|中《なか》さ住んでいながら、離れ小島に流されるのと同じだからよう!
りき ふむ。……んだが、石ころが急にまた、じようぶ、しやべりやがる。
喜十 ばさまだから、しやべれるんだ。のし! 俺の身にもなつてくろい。
りき だども、おらにどうしろと言うんだ? 俺の身にもなつてくれと言つたとて、おらあ、ばさまで、お前は喜十ずら。
森山 いえさ、そこんとこをですよ、一度ばさまに話して、全体どうしたらいいか、ようく相談して――まずそう思つて喜十さんも私も、こうしてやつて来たようなわけで――
りき さあて、そりや、無理だあ。おらに何がわかりやす? 相談にやならねえなあ、(シヨンボリした一人語り)うまく行かねえもんだなあ世の中つうもんも。……喜十なんどの、正直いつぺんのシが、うまく行かねえとなると、これ、なんとすればええだかなあ――
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(一座シンミリとしてしまつて、誰も語り出す者なし)
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サダ ……あい、お茶がへえりやした。
りき おい。……、森山さんもどうぞ。喜十も飲め。
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(サダが茶わんをくばる音)
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せん あい、中込の餅でやす。(箸にはさんで出す)
りき なんだ、へえ、こりやアンがついてら。
サダ 喜十のおじさん、手を出してくんなんし。
喜十 へい。
りき (食いながら)こら、うまい、よくつけた。さあさ、森山さんも。新一も次郎も食いな。
新一 うん
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