を、すこし掘りひろげて三畳ぐらいの広さにしたもの。土の上に板を敷きならべ内部の一隅にフトンをしいて、両眼をギッシリとホウタイした俊子が寝ている。母親のリクは、その枕もとに坐って、口の中でブツブツいっている。父親の義一は、こちらの片隅にすえた石油箱に向って、時計の修理をしている。入口に近い、焼けた木の根に、きたない訓練服にゲートルで、よごれたリュックをわきに置いて、たった今よそから帰って来たらしい、憔悴した明。酔っている。それに向って立っている工員姿の北村。
午後の陽がひどく明るく静まりかえっているために、焼けくずれた傷痕のなまなましさが、光景の上にも人々の姿や表情の上にも、かえってクッキリと現われている。
[#ここで字下げ終わり]
明 ……(抑揚なくノロノロと)……だから、……だから死ねば、いいんだろう?
北村 そんな君、そんなふうに――
明 死んじまやあ、いいんだろう? いいじゃねえか、それで! んだから、俺あ志願したんだ。許可がおりるのを待っているんだ、だから。……死ねばいいんだ。ヘイチャラだよ、死ぬことなんか!
北村 そりゃ、俺だって――しかたがねえからね。それに今となっては
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