せている)……(低い押しころした声で)ぜんたい、お前は誰だね?
友吉 は?
宗定 お前は、なんだ?
友吉 ……はい。片倉友吉という――
宗定 そうじゃない。そんなお前、今どき、この――
友吉 時計工で、あのう、――組立てやなんか――時計屋であります。
宗定 そりゃお前、そんな――(ついに、くたびれてゲンナリしてしまい、しばらくだまっている。……間。……誰もなんにもいわない。‥…宗定やっと自分から回復して、今度は怒りを底に沈めた事務的な調子で)……よし。そりゃまあ、よろしい。これが最後だからね、いいね?(内ポケットから調書を取り出して、ペラペラめくって見ながら)かんたんにいう。ええと――お前は、戦争は、やめなければならんといっているが、これは昨日や今日はじまったものじゃない。いろんな原因が押せ押せになって、しかも、相手のある仕事だ。あれやこれやの原因が次ぎ次ぎとノッピキならずつながり合って、遂にしょうことなく此処まで来たものだ。……つまり川の水が流れくだって来たようなもんだ。よさなければならんと、いくら思っても、押しくだって来た水の勢いを、今ここでせきとめるわけには、いかん。不可能だ。い
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