方は、老いの顔が苦痛にひきゆがんで眼がすわっている。起きあがるなり、友吉をにらみつけて、ふるえる声で、脈絡のない言葉で、どなる)在郷軍人会や銃後奉公会からいろいろとウルサイことをいわれるから、自分の所まで痛くない腹をさぐられるのはイヤだから、今月一杯で是非たちのいてくれ! オオヤの松村さんではそういうんだぞ。無理もないのだ。無理はない! しかし、こんだけ家がドンドン焼けちまっているのに、どこに引越して行く家が有るというんだ? うん? 町会じゃ、そんな非国民の家に配給をするのはごめんだといって、そのたんびに、ひどい事をいわれる! おっ母さんは――おりくは、とうとう寝ついてしまった! 明は会社をやめさせられてカツギ屋になったが、ヤケになって酒を飲むことをおぼえて、一銭だって内にゃ入れない! 俊子は俊子で電燈会社で首になりそうになっているんだぞ! 俺の方も、ちかごろ時計の修繕の仕事も、まるきりなくなって、一家四人が、この先どうなるというんだッ! それも、みんな、お前のセイだ。お前が、こんな――
黒川 いいよ、いいよ、わかってる。まったくだ。実にこの――いえ、ようくわかってるから、いいよ、おや
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