フ。(義一の背をつついたりしながら、それを聞いていた黒川も笑い出す。そこへ今井が、バケツに水をくんで入って来、黒川のところへ持って行く。黒川、バケツの中から水をしゃくって、義一の顔にかける。義一が、ウッ! と声を出す。宗定そちらを見つつ)……とにかく、キリスト教の教義をだなあ、ウンと追いつめて、このギリギリのところまで煮つめて行くと、この男の思想、つまり戦争反対になる事は事実なんだから――
人見 いえ、それは、キリスト教界は広うございますが、片倉のような者は、ご存じのように、たった一人で、なんです――
宗定 すると、君なんぞは、なにかね、戦争には賛成なのかね? それでキリスト教の信者といえるかね?
人見 いえ、この、なんです、この、信仰上のことと、実際の、この国家といいますか、自分が生きている此の国の法律や、国策に従うという事は、自ら、別の事でございまして――
宗定 そりゃ理屈だよ。僕のいっているのは、理屈以上の、この、現実というかね、現実問題としてだよ、キリスト教の中から国策に対して正面きって反対した人間が一人でも現れたとなると、キリスト教ぜんたいが、あぶなくなるという事をいっている
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