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東亜計器工場の人事課長室。夜。周囲は全部まっくらな中に、燈火管制用のエンスイ形の電燈がテーブルの上をカッと照らしている。その光の中で、テーブルの正面に坐って、話している課長。はじめ、こちらに話しかけているかと思える。しかし実は、聞かされているのは、テーブルのこちらに、背を見せてションボリ腰かけている片倉義一。義一の姿は、逆光のため、おそろしく大きなボンヤリしたシルエットになっている。そのシルエットに区切られた光の輪の中で、シルエットに向って――こちらに乗り出して、心労と恐怖と脅威の入れまじった、低く押しころした早口でしゃべる課長の顔の、ふくれあがった鼻腔やブルブルふるえる頬のシワまでハッキリと見える。(クローズ・アップ)義一のシルエットが、時々、課長に向っておじぎをする。
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課長 ……でねえ、その、アカでないという事だけは、むこうでもハッキリしたらしい。最初は、てっきり、そうと思ったらしいんだ。そうだろう。今どき、そんなムチャな人間が居ようたあ、君、誰が考えたって、そうとしか思えないからね。また、本人が先方
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