心配がないから、なんとでもいえるだろうさ。ぜんたい、この聖戦をだなあ、こんなふうに――グウ!(と言ったのは、下士がツと寄って、背広のえりに両手をかけて、十文字にグイとノドをしめあげたのである。下士はそのまま浮田をボロのように引きずって、廊下に消える)
伴 ……(しばらくだまっていてから、なんにもなかったような調子で)そこで、クリスト教信者として、守らなければならぬ事になっとる、この、掟だねえ?
人見 は?……はい。(ガタガタふるえ出している)
伴 山上の垂訓とか、いうやつさ。さがしたが、見つからん。(テーブルの上の小形の本をいじくる)いって見たまえ。
人見 それは、あの、なんです……なんじ、カンインするなかれとか、なんじ、いつわりのアカシをするなかれとか――つまり、キリストが示した一種の道徳上のです、標準といいますか――
伴 だが、信者なら、それを守らなければならんのだろう?
人見 はあ、それは、なんですが……この宗教上の信条と申しますのは、実際上にこれを、なんです、実行するという点になりますと、いろいろの解釈がありまして、必ずしも、この――
伴 必ずしも実行することを命じていない?
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