ゃ壁に頭あぶっつけて、ハナあたらして死んでしまうんだ。それまでの踊りでしょう。ヘヘ、私なんざあ――
男3 なによネゴトいっていやがる、モヒ中め!
男4 あい、モヒ中ですよ。いいじゃないですか、ヘヘヘ、――
男3 よかあねえよ。お前みてえな、チッ、空襲のドサクサまぎれに、女をつかまえて、おかしなマネをするような奴は、人間じゃねえよ。
男4 そうですよ、ヘヘ、そうですよ。じゃ、だれが人間ですか? ドンドン殺しているんですよ、人間が人間を。ヘヘ、私あ、そんな手荒らな事あしません。ただ、女の子にチョッとさわるだけだもん。
男3 さわるっていやあがる。ペッ、ペッ!
男4 天にまします、われらの神さま……ヘ!(アーアーアーと何かうなり出す。その節が、それまでズーッと断続してきこえて来ている奥からのサンビ歌のメロディに合流して斉唱する形になる)
男1 よせよ、おい!
男2 くそッ!
別の声 (ここからは見えない奥から)おいおい、第三号、やかましいぞッ! 静かにしないと、夕《ゆう》めしを食わせんぞお!(この一言で四人とも、いっぺんにだまりこむ。そのシーンとした中に、奥からのサンビ歌だけが、静かに流れて来る。)
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(間……)
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男3 ……(低い声でまたはじめる)ヘッ? こらえてくれよ、飯をとりあげられて、たまるもんけえ、ゴクソツめ! ……(他の三人は、尚しばらく沈黙)
男4 ……だけど、なんですかねえ、この――これから、ぜんたい、どうなるんですかねえ?
男3 なにがね?
男4 サイパンは落ちる、オキナワも、もうダメらしいじゃないですかね? 四国や千葉あたりじゃ、海岸一帯に立ち退きがはじまっているというんだから。
男3 だから、本土作戦だよ。焦土戦術。
男4 それがですよ、どこがどんなふうになれば、どういうことになるんだろう? つまり勝つとか負けるとかいうメドがいつになったらだねえ――
男3 バクチだあ。丁と出るか半と出るか、やっつけるまでだよ。
男2 負けるね。
男4 え、負ける? こっちがですか?
男2 ああ。つもっても見ろよ、向うでは、原子力のバクダンかなんかを、ロケットで持って来ようとかしてるのに、こっちじゃ、紙で風船をこさえて、飛ばすんだそうだ。笑い話にもならん。ヘヘ、もう、なんだね、金や物をウンと持った連中は、山ん中やなんかへ逃げ出す仕度をしてるよ。ヘヘヘ。
男3 おいおい君! そんなへんなふうないい方はよしたらどうだね? 君あ、ファッショだろ? 右翼だろ? 忠君愛国だろ? つまり、カンバンだけでもよ。そんだら、イクサがこんなふうになって、わが国が困りきってるのに、そんなセセラ笑っている手はねえじゃねえか! とにかく、てめえの国だぞ! そうじゃねえか、日本人を、こんだけサンザン殺しやがって、ちきしょう!
男2 や、国士に対し、脱帽!
男3 なにい?
男4 その原子バクダンというやつは、どういうもんですかねえ? よっぽど、モーレツな、この――?
男1 日本でも、出来ているというけどね、マッチ箱ぐらいのやつ一つあれば、ロンドンの全市をあとかたもなく吹き飛ばせるというんだから――
男4 ……使いますかね、そいつを?
男1 さあ。……使うかもしれんね。
男2 とにかく、もう向うでは一トン・バクダンは使ってるらしいね。こいつにやられると地下三四十尺の防空壕なども役に立たんそうだ。
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(かなり間近かな所で、けたたましい空襲のサイレン。二度三度とつづけざまに鳴る。四人ともだまってしまう。……奥の上の方で「待避! 至急待避だっ[#「待避だっ」は底本では「待避だつ」]!」と叫ぶ声と、人々が待避に駆け去る足音)
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男4 ……ふう、……き、き、来ましたねえ!(右手で鉄棒にかじりつく。左手の動きが、こきざみにはげしくなる。男はキョトキョトそのへんを見まわした末に、からだ全体をちぢこめ、石のように強直してしまう。頬の肉がブルブルとふるえている。男2はサッと立ちあがり、顔の中から今にも飛びだして来そうな兇暴な目で鉄の棒の間からこっちを睨む。男3は歯をむいて「タッ! おい、おい、おい! やい!」と思わず叫んだり、顔じゅうをしわめている。あたりはシーンとなってしまう。空襲警報が鳴りやんでから空襲のはじまるまでの間の静けさ。……その中を、中央の廊下をスタスタとこっちへ歩いて来る人影。鉄柵の前の明るい所に来たのを見ると友吉。衰えきってほとんどすき通るような顔色。左腕は肱の所からブランとなっている。右手にさげていたバケツとゾウキンを廊下の隅にかたづけ、廊下の奥を見る)
男3 おい、エスさん! エスさん! 空襲だ! 空襲だよ!(口中がかわいてしまったカスレ声)
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