にはさんだ。エスさまあ、しきりと、泣いていたっけ。
男4 そんでもウンといわねえのかね。
男1 ……気がヘンなんだろう?
男3 えれえと思うよ。
男4 あんな、まるで、オナゴみたいなおとなしい奴がねえ?
男2 ……ひでえもんだなあ。なにかね、信じこんだとなると、そんなになるもんかねえ?
男4 うう、暑い。
男2 え? 広い日本にヤソも多いだろうし――いや日本たあ限らねえ――アメリカだとか、西洋はたいがいみんなヤソでしょう? だのに、そんな話あ聞かねえし、そんな人間も現われねえのは、どういうんだね?
男1 直接ヤソ教に関係の有ることじゃないだろう。やっぱり、偏執狂というか――
男4 ああ。ああ。たまらねえ。……
男3 ちがう。俺あ、あの大将は、えらいと思う。つまり信念というかな、自分がこう思ったら、たった一人でもだ、ああしてがんばっているのは、よくよくの事だよ。なんかこう、神さまとか仏さまとか――つまり、そんなもんに近いような、おっそろしくえらい、この――
男1 フ……(声を出さないで嘲笑)
男3 なによ笑うんだ君あ?
男1 だって、精神病が、えらいとなったら君――
男3 精神病じゃねえよあの人は。だって[#「だって」は底本では「だつて」]どこもまちがってやしねえじゃねえか。よしんば気がちがっていたにしろだ、えらそうなエンテリづらをして、赤だいこんの腐ったようなマネをするよりや立派じゃねえか!
男1 なんだって、赤ダイコンだ?
男3 ……フ。お前さん、アカなんだろ? そいで、ペチャペチャにあやまっちゃって、タバコなぞを当てがってもらってシュキを[#「シュキを」は底本では「シユキを」]書いてるそうだね? この戦争は聖戦でございますだって? ヘ、笑わしやがらあ。そんな奴よりや、エスさまの方を俺あ信用するね。
男1 いいだろう。それで、君は、ぜんたい何だよ?
男3 俺あスリだよ。闇屋だ。闇屋でスリで、ゴロツキだ。
男1 だから、この戦争をどう思っているんだね?
男3 戦争は戦争だあね。聖戦でも不聖戦でもありやしねえ。喧嘩だ。そんだけの話だ。あんまりリコウもんのする事じゃねえよ喧嘩なんて。しかし、これで、起きちまったもなあ、しかたがねえからこんで、やっつけるまでだ。
男1 同じじゃないか。だから此の戦争を戦い抜いて大東亜共栄圏を作り上げることは、日本の任務なんだから――
男3 だってアカは、もともと、この戦争にゃ反対だったんじゃなかったのかね? 反対なら反対だと、なぜ突っぱねていねえんだよ? そいでこそ、とにかく人間だ。善いの悪いの問題じゃねえや。そんなら、とにかく信用できらあ。ヘヘ、なあに、お前たちや、ただ、おどかされて、おっかなくなったんで、そんで、でんぐりげえってしまって、木に竹をついだように、ヘンテコリンなヘリクツを、こせえあげてるだけだ。おかあしくってえ! そいつがおめえ、てめえの命を投げ出して、ああしているエスさまをあざ笑ったり、キチガイあつかいに、よくできたもんだ!(いわれて男1はセセラ笑いながら相手にならぬ)
男2 (男3に)しかし、なんだぜ、君も、なんだ、オダあげるのも、いいかげんにしといたらどうだい? 君あ、なんじゃないか、あの男が時々、断食する、その食わないメシを貰って食ってるもんだから、そんな事いうんだろう?
男3 ああよ、貰って食うよ! もったいねえからなあ。それで俺が助かりゃ文句はねえからね。ぜんたい、此処にあんだけ永いこと居て、差入れ一つねえのに、断食するなんて、タダのもんにゃ出来ねえことだ。
男2 フフ、君あ、なんじゃないか、もしかすると、あの男を使って、ひと芝居打とうと思ってるんじゃないかね?
男3 なんだって? ……(ジロジロと男2を見る)へえ、そうかね? いかにも、ヘヘ、院外団くずれのヤマシらしい事をいうねえ?
男2 ヤマシと! なにを、きさま――
男3 言葉が過ぎたら、ごめんよ。ヘヘ、だって、此処にこうして、くらいこんでいりゃ、いずれ、そんなにマットウな事あ、お互いにしていねえのは、いねえんだからね。でしょう?
男2 今にわかる。自分はただ、この戦争に負けちゃならんと、しんからこの、憂慮してだ、自分の信念にもとづいて、多少の鉄材を動かそうとした。それが、たまたま――
男4 ヘヘヘ、ひっかかったんですよねえ。ヘヘ、だいたい、まあ、そんなもんでしょう。いいじゃありませんか。(ねぼけたような調子で、ブツブツいう)なんでもいいよ、スリだろうとヤマシだろうとアカだろうと、此処にくれば、おしまいでしょうよ。そんなムクれることあないでしょう。みんな、自分のしたい事をして、そんでつかまるなり、手をおっぺしょられるなり、べつに、だから、そううらむ事はないじゃないですか。いくらジタバタしたって、人間だれしも、しまいに
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