。小笠原は前に友吉を二、三度は見たことがあるらしい。へんな顔をしてジロジロ見る)
友吉 (なつかしそうに)今晩は。(一同におじぎをする)
小笠原 あの、片倉――さん、でしたっけ? ホホホ、窓からのぞいたっていうのは、あなた?
友吉 (わびるように微笑して一同の顔を見くらべながら)ずいぶん、ごぶさたしちまったもんですから、あの――
小笠原 そういえば、竜子さんはちょうど[#「ちょうど」は底本では「ちようど」]、入れかわりのなんだから、ご存じじゃなかったんでしたっけ[#「なかったんでしたっけ」は底本では「なかったんでしたつけ」]? (竜子「はあ」とうなずく)やっぱり、此処の会員だった――(人見に)でしょう[#「でしょう」は底本では「でしよう」]、先生?
人見 ……(それには答えず友吉に)どうしているの、ちかごろ……?
友吉 ええ、まあ――
人見 僕も行こう行こうと思いながら、忙しいものだから――(友吉の姿を見てから、なにかコチンと、どこか怒ったような調子になっている)
友吉 いえ、私こそ、あの――(そのような相手の調子を受取ることができない位になつかしい気持でいっぱいになっている)……クリスマスですね、先生。(クリスマス・ツリイを見る)実にキレイだ。(ニコニコして)僕は思い出すんです。戦争中のクリスマス――たしか三度、先生と治子さんと僕の三人きりでお祝いをして――一度はそこの林からヒイラギの、こんなチッチャイのを切って来て、そこに立てて、飾りがないもんだから、ローソクを三本立てて、三人で、ソトにきこえないように小さな声でサンビ歌を歌った。ハハ。……それが、しかし、こうしてやれるようになったんですから、実にありがたいですねえ。
人見 ……お母さんなど、内のみなさん、元気かね?
友吉 え? ……ええ。あの、母は死にました。肺炎で――先々月。
人見 ……そう。そりゃ……ちっとも知らないもんだから。そうですか。どうも。(と、ていねいに頭をさげる。友吉も礼を返す)……そいで妹さんの眼の方は?
友吉 俊子ですか? ありがとう存じます。やっぱり同じですけど、すこしは見える――以前よりは良い方なんです。
人見 そりゃ、けっこうです。……それで、なにか御用でも――?
友吉 はい。いえ、べつに、その――
人見 実にこうして会員の方にも来ていただいたり、それから木山さんもわざわざ見えて下すって――もと広島の中学でしばらく私が教えてあげて、――御両親が向うにいられて、こんどやって来られた方で――
木山 (竜子に手つだって、西洋皿にカンヅメの中味をあけていたのが此方を向いて) こんばんは。
友吉 ……(木山に頭をさげる)
竜子 (デセールをもった皿を奥のテーブルの上に置き)どうぞ先生。小笠原さんも。すぐお茶を入れますから。(奥へ去る)
人見 (それにエシャクして置いて、友吉に)今夜は忙しいものだから――
友吉 ……(急にさびしそうな顔になる)はい。僕はすぐ、なんです、失礼しますから。……(すこし離れた奥では木山が二つ三つのイスをテーブルのわきに持って行き、小笠原を招じて掛けさせ、自分が先ず皿のデセールを一つ取って食べて見せ、小笠原にすすめている)……治子さんの事で、チョットあの――
人見 治子? ……なんでしょう[#「なんでしょう」は底本では「なんでしよう」]?
友吉 心配になったもんですから――もっと早く来よう来ようと思っていたんですけど、ツイ――ぼく、この頃、時計の仕事がタマにしかないもんで、昼間、あの、クズ屋みたいな事をしているもんですから――暇がなくて――
人見 いや、そりゃ、妹の事については、私も心配しているんだが――なんしろ、この半年ばかりフッツリ寄り付かないし、訪ねて行っても会いたがらない。この三、四カ月、だまって、どっか越して行ってしまって、どこに居るか――君は会ったの?
友吉 たまにヒョッコリ、僕んとこに、あの――
人見 へえ? すると――?
友吉 たいがい僕のルスにみえて、俊子に、あの食べる物や、金をくだすって、そいで――二、三度は、ねむいから、いっとき寝させてくれといって半日寝て、そいから又どっかへ――僕も治子さんの所は、よく知らないんです。
人見 ふーむ……。
友吉 ここんとこ、しばらく、見えないんですが、二、三日前、人からヘンな話を聞いたもんですから、心配になって――
人見 どういう仕事をしているんだろう、そいで?
友吉 僕にもわかりません。会社の事務の方はトックにおよしなすったようですが、その後――二、三日前に治子さんを見たといって話してくれたのが、貴島――貴島宗太郎といって、あの、良い人間ですけど、でも、妙な所にばかり出入りして、あの、いろんな事を知っている人で――
人見 ダンスホールで見かけたという人がいたんだが――
友吉
前へ
次へ
全45ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング