てくださいました事を。このような兄弟を、私どもに再びおつかわし下さいました事を。……平和が、今後永久につづきますように、願わくば、……(あと、まだ祈る)
小笠原 ……(それを引きとって)アーメン!(昂奮して涙ぐんだ顔を輝かしながら、元気よく立ちあがって)……さあ、今夜でスッカリ飾りつけをすませましょう[#「すませましょう」は底本では「すませましよう」]。明日は日曜学校の生徒さんたちの準備だし、その次ぎの次ぎの日はクリスマスですものねえ……もっとおそくまで居れるといいんですけど、ちかごろ、郊外の方はぶっそうでしてねえ。おどろくじゃございませんの、ホンの二、三日前の晩に、私の内のすぐ近くで、追いはぎと、そいからあの、乱暴された女の人が、一晩に三人もありますのよ。それに近頃では強盗が押し入るんでも、ゲンカンから、堂々とアイサツをして来るそうですわ。ホントにまあ、日本は、なんという事になったんでございましょうねえ、恐ろしゅう[#「恐ろしゅう」は底本では「恐ろしゆう」]ござんすわ、それを思いますと。
人見 そうですね。……いや、もうこれだけやっていただけば、あとは私がボチボチいたしますから。それに明日あたり、ほかの会員のかたも見えて下さることになっていますから。(それまで、窓の外から、のぞいていた顔が、見えなくなっている)
小笠原 はあ、いえ、まだいいんですの。(と再びデコレーションにかかる)此処だけ、やってしまっておきます。……先生、あの、お妹さまは、ちかごろいらっしゃらないんですの?
人見 はい、ちょっと――
木山 いもうとさん、先生に有りますか?
人見 そう、木山君は御存じなかった。ええ――治子といって、今、ちょっとほかへ行っております。……(妹の事を語りたくない様子で、再びセッセとクリスマス・ツリイの飾りつけをはじめる。木山も)
小笠原 ……(手を動かしながら、奥の方へ呼びかける)原田さま、まだ? お手伝いしましょうか?(奥からは、返事がない)あのカン切りでは、ダメかも知れませんわよ先生? なんしろ向うのカンヅメは、シッカリできているんですから。
木山 では、私が開けてあげましょう[#「あげましょう」は底本では「あげましよう」]。(気軽に奥の方へ行きかける。そこへ、若い洋装の原田竜子が、切り開いた大型の四角のデセールのカンと、大きな西洋皿をかかえて、急いで出て来る。背後の奥を二度三度と振返りながら。木山それにぶっつかりそうになって)……おお、しつれい!(笑いながら、竜子の身体をかかえ止めるようにする)ああ、開けること出来ましたね。ハハ。――どうか、なさいました?(笑いを引っこめる。竜子が尚も奥を振返る顔が青く、手に持った西洋皿が、カチカチとカンヅメのかどに音を立てる)
人見 どうしました、竜子さん?
竜子 はあ、あの――いえ、私の気のセイかも――(皿とカンヅメをテーブルの上に置いて、又奥を振返る)
小笠原 なにか――?
竜子 ……ヒョッと、あの、流しのそばの窓を見たら、誰かこっちを向いて笑って――
小笠原 え? ソトから?
竜子 はあ。 ――たような気がしたんです。
人見 ……コジキでしょう[#「コジキでしょう」は底本では「コジキでしよう」]、それは。ちかごろ、よくこのへんをウロウロしますから。
小笠原 でしょうか[#「でしょうか」は底本では「でしようか」]? こんな雪のふる晩に、それでも。――
木山 ぼく、見てきましょう[#「見てきましょう」は底本では「見てきましよう」]。こちらですね?(スタスタ奥へ。それを案内するように竜子が後からついて行く)
小笠原 (おびえた目で人見を見る)……?
人見 (笑って)たとえ、ドロボウにしたって、なんにも、あなた、このウチには取って行く物はない。
小笠原 でも――
人見 じゃまあ……(左手へ行く。小笠原も一人で居るのが不安らしく、急いでしたがって去る。室内に誰もいなくなる。……間)
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(右手から友吉が入って来る。なつかしそうにそのへんを見まわしながら。学生服や作業服など有りたけの着物を重ねた、極端にみすぼらしい姿と、青ざめた、柔和な顔。ビッショリとぬれた両足。肩に附いた雪をはらいおとしながら、眼を輝かして、デコレーションにキラキラときらめいているクリスマス・ツリイに見とれている……間)
(奥から、腕や頭についた雪をはらいながら木山と竜子が、同時に左手から人見と小笠原が、もどって来る。木山と竜子はすぐに友吉をみとめて立ちどまる)
[#ここで字下げ終わり]
人見 (小笠原に)やっぱり、コジキですよ。……(友吉を見て、すこしギクンとする)……(しばらく友吉を見つめていてから)なあんだ、――君か?(木山と竜子は友吉を知らないが、人見の知人らしいことがわかり、ホッとして見ている
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