たなくなって来るんじゃないでしょうか? 今はもう、そんな差別は抜きにしてみんながいっしょになって立ち直して行くことを考えないと、うまく行かんのじゃないかと、僕――
声一 アーメン!アーメン!わかったよ!
声二 進行、進行!(五、六人の拍手)
司会 じゃあ、次ぎの、有志の質問意見という事にうつりますが、しかし、われわわれ此際、今の片倉君の意見と同じような――いや、意見そのものの当否の問題でなくて、事態が、事ここに至っているというのに、いまだに中途半端な、妥協的見解を抱いている者がわれわれの間に居るようでは、今後はなはだ困ると思うので、どうかみんなは今日は腹蔵の[#「腹蔵の」は底本では「腹臓の」]ない事を話し合いたいと思います。
友吉 それでは――(いいながら、テーブルの所からさがろうとして、足をイスにぶっつけ、左手がきかないために身体の中心を失ってヨロヨロとなる)
細田 ……(イスから腰を浮かして、その友吉をささえてやりながら、わきのイスをさして)ここへかけたら、いい。
友吉 はい、どうも。――
司会 それでは、その前に、委員長に、会社当局との、今日午前中までの交渉経過について報告をしてもらい、併せて今後の見通しと、われわれの持たなければならぬ決意について話して貰います!(一同のさかんな拍手)
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(その拍手の中に、ションボリして[#「ションボリして」は底本では「シヨンボリして」]イスのそばから立ち去って行きかけた友吉が、ちょっと立ちどまって、一同の方を、いぶかしそうな、そして悲しそうな眼つきで見まわしている顔。その友吉を、細田がジッと見まもっている)
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        9

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 壕舎。
 6と同じ。ひるごろ。6で義一が仕事をしていた石油箱に向って、友吉が時計の修理をしている。左手の白由がきかないので、あまりうまく行かないようである。6で俊子の寝ていたところには母のリクが寝ている。一家の窮迫の状は6の時よりひどくなっている事が一見してわかる。6にも出た北村が、あがりばなに掛けて、持って来た二三の品物をポケットから出してユカの上に置きならべている。
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北村 これはヒゲだ。もっといろんな種類のをそろえてと思ったけど――又手に入ったら持って来るよ。これは心棒。……心棒なども材料が悪くなったね。地金がまるきりヨタなんだ。会社でこさえていても、それ考えるとイヤになるよ。廻っているのがフシギさ。ハハ。(ポケットからガラスビンを出して)そいから、キハツをすこし。
友吉 だけど、そんなに――いいよ。この前のキハツの代もまだ払ってないし。
北村 いいじゃないか。だって、もうないんだろ?
友吉 ないにゃないけど――
北村 じゃ使えよ。修理をやるったって、部品やキハツなしじゃ、やれやしないじゃないか。なにどうせ僕だって買ったもんじゃなし。
友吉 悪いよ、だから。会社の物をそんなに君――困るなあ、僕。
北村 クスネて来たんじゃないんだよ。会社では近頃、請負の方の仕切りが、とても悪くなっているんで、その代りに余分の部品や、キハツのすこしぐらい、部長の責任で、仕切の歩合いとして持ち出していいことになってるんだよ。どうせ一時の事だろうが、そいつを外で売って、そいでしのいで行ってくれというんだね。
友吉 そうかねえ。しかし、それなら尚のこと、僕んとこなぞに廻しちゃ、大した金にはならんのだから――
北村 なに、僕は一人ぐらしだし、なんとかやってるから、大丈夫なんだ。
友吉 ……ありがとう。じゃ借りて――仕事して金が入ったら、あの、なにするから。
北村 いいんだ、いいんだ、いつでも。……おばさんよく眠るね?
友吉 うん、クスリをのむと、あと二時間ぐらいグッスリと眠るんだ。
北村 (のぞきこんで)なんだか、又、やせたようじゃないか?
友吉 ……食べるものを食べないもんだから。……いやいや、それくらい有るんだよ。有っても食べない。断食するんだといって――どうも。
北村 サチャグラなんとか――だろう?君のケイサツでの断食のことが頭にコビリついてしまったんだなあ。
友吉 ……(泣くような微笑)――そいで、眼がさめると、すぐに、なにか食べさしてくれ。で、食べる物当てがうと、食わない。――弱るよ。チンセイザイで、こうして眠っていてくれてる時だけホッとするんだ。俊子など、泣かされてばっかり居る。……
北村 ……(あんたんとして、しばらく黙っていてから)――俊ちゃんは?
友吉 ありゃ、修繕の注文をとって来るんだといって――
北村 え? あの眼で?
友吉 よせといっても、きかないんだよ。僕が廻っていると時間をとられて、かんじんの仕事ができないもんだから。
北村 どこまで、そいで――?
友吉
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