、三の笑声)
声二 進行々々!
司会 (困って、それらの声をもみ消すように)いや、それは、それとして――つまり、問題は、そんな事じゃなくなって、つまり、われわれ勤労者が今後のことをやって行くについてだな、正しく平和的にわれわれの生活と生産を守って行くについての、この、参考にするために片倉君の意見というものを聞きたいので――ねえ片倉君!
友吉 え?(あちこちからの[#「あちこちからの」は底本では「あらこちからの」]声のためにキョトキョトと混乱して)はあ、あの、たしかに、あの、働らく人間が安心して働いて行けるようにならないと、たしかに、ホントの平和は来ないと思うんです。ですから――
司会 だからね、今ねえ、この会社では、つまり、君も知っているように、この会社では軍の仕事をして非常にもうけて来たんだ。で終戦になってから、又もとの時計の製造に切りかえたんだが、資材はなし、うまく行かないので、ドンドン人員整理――つまり首きりをはじめてるんだよ。戦争中にもうけた利益は、いち早く、ほかへ持って行ってしまったり、首脳部の方でかくしこんでしまってだな、どうしても経営が苦しくなったからと――会社の言草は、そうなんだよ。あんまりひどいんで、僕らの方では組合をこさえて、なんとか首きりはよして、うまくやって行けるように、さんざん交渉しているけど、会社では、どうしても此方の言い分を聞いてくれないんだ。そんで、まあ、或いはストライキになる以外に方法はないというところまで来てしまって――いや、誰もそんな事やりたくはないけどさ――しかたがないからね。しかたがないからね。そいでまあ、今日はその準備というか、こうして座談会を開いて、みんなの意見を出し合うという事になってね。そんなわけだよ。
友吉 ……そうですか。どうも僕には、よくわからないんで――ですから、そう言ったんですけど――どうしても出席しろとおっしゃるもんですから。――
司会 どうだろう、だから、それについて君の意見を聞かしてほしいんだよ。
友吉 べつに僕には――いえ――でも、ストライキなんかしないで、あの、会社によく頼んで、うまく、この、やれんでしょうか?
声一 エッヘヘヘ!頼んで聞いてくれるようなそんな人間らしい奴は、会社には居ないんだよ!
司会 そりゃサンザンやったんだ、これまでに。でもどうしてもダメだもんだから、いよいよ、しかたがないというんでね。
友吉 ……そうでしょうか?すると――いえ、実は僕も家族があの、――病人が居たり、弟はああして死んでしまったし、それに僕の手がこんなもんで、ほかの仕事を捜すといってもチョット有りません、暮しが苦しいもんで――又、こっちに使ってもらえないだろうかと思って、先日頼みに来たら、課長さんが、使ってやろうというようにおっしゃってくれたもんですから、実は今日やって来たんです。すると、しかし――
司会 どうりで、人事課に居たんだね? そうかね――しかし、そりゃ君、一方に於て百人以上も首を切ろうとしているなかで、君を採用しようというのは、そいつは、マユツバもんだし、もしそれが事実だとすると、君は一時会社をよして、組合に加入していない人間だから――
声二 なあんだ、なあんだい! スキャップじゃねえか、すると争議やぶりだ!
声一 エスさまあ、おれたちを裏切りにおいでになったんだあ!
友吉 ……(裏切りといわれて、しんけんになり)そんな事はありません!そんな諸君を裏切るなんて、そんな――。僕は、ただ、どうしても暮しが立たないもんだから、なんとかして、この時計の仕事でなんとかしたいと思ったもんだから――諸君を裏切ろうという気持なんか、僕には、ミジンもないんだ。
司会 そうだろう、そうだと思う。君にそんな気持がない事は信ずるよ。しかしだなあ、会社としてはこの際組合の人間を首切ってしまって、ウンと人数をへらして、代りに会社のいうなりになる人間だけを入れてやって行きたいと思っているんだからね――それに君は組立ての方では腕が良かったんだし、この際、会社では君のような人間をほしいんだ。だから、君が入社すれば、君自身われわれを裏切ろうという気はなくても、結果としてはだな、ぼくらを裏切ることになるんだよ。だから――
友吉 そいじゃ、僕は入社しなくても――いえ、入社しません。そんな僕は――でも、しかし、僕は思うんです。ストライキなど、しないで、もっとこの両方で話し合って、やって行くようにです。――できないでしょうか? いえ、僕には、めんどうな理屈はわかりませんけれど、こんなふうになって、日本はメチャメチャになってしまって、すべての事が乞食と同じような事になってしまったんですから、この、以前のように資本家だから、労働者だからということで対立して、あらそって見ても、事実、資本家の方も苦しくて成り立
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