リとたれている。一同拍手)……どうも、ぼくは、あの、チョット[#「チョット」は底本では「チヨット」]用事があって、来ましたら、人事課の表の所で、杉田さんに――(と司会者の方を見て)会って、無理に、あの、此処へつれて来られて[#「来られて」は底本では「来たられて」]しまって……(困りきった微笑。それを見ていて一同の間にも気の良い微笑のさざめき。一、二の人が、まばらに拍手する)……ぼくなんぞ、べつに話すことも有りませんから――
司会 いいじゃないか、なんでも思いついたままの事をいってくれよ。
友吉 ……弱ったなあ。
司会 弱るこたあないじゃないか。君がナカでがんばって居たじぶんの感想でも話してくれたまいな。
友吉 ……がんばって居たなんて、そんな――ぼくが悪いんですから、あの――
司会 悪い?
友吉 みんなにメイワクをかけて、父や弟や、そいからいろんな人たちを、苦しめることになって……会社の皆さんにもホントに(と会衆に向って詫びの頭をさげる)――ぼくのような者が一人出たために、ずいぶん、ごめいわくをかけちまって――ホントに、すみませんでした。……でも、しかたがなかったもんですから――
司会 そんな君、そんな――そういうふうには、ぼくら、誰一人思っていないんだから――
友吉 いえ、みんなにメイワクがかかる事は、はじめからわかっていたので、召集を受けるまでに会社をやめて置こうと思ってたんですけど、ほかに口がないもんですからグズグズしているうちに、あんなふうになってしまって――諸君があれだけシンケンに国のために働いているのに、それをぼくのために、みんなが国賊だなんていわれたりしたんですから、ぼくの事をみんなが、あんときハイゲキしたのは、とうぜんなんです。弟の明のこともあとで聞いたんですが――私のようなものの弟なんですから――あの、しかたのないことで――どうか、許してください。おわびをします。
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(この言葉と、司会者及び一同の置かれている立場や気分とが、不意に喰いちがって一同シーンとなる。細田だけが注意深く友吉を見ている)
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司会 ……(妙な顔をして)そりゃ君、今となっては、この、なんだよ――世の中が変って、自由な、この、つまり戦争中ぼくらみんながゴマカされたり目かくしをされていたために、なんだ、あんな戦争なのに、それに負けちゃならんといわれるままに、なかには本気になっていた者も居るんだから、なんだ、君に対して、君を、つまりハクガイしたりした者も居ただろうけど――いや、ほとんどみんな、そうだったかも知れんけれど、それは支配階級からゴマかされてホントの事を見ることが出来なかったからの事で――しかし今はもうわれわれは解放されて自由になったんだから――だから、みんな、あの時は、君に対してすまない事をしたと思っているんだと思うから、それで、まあ、こうして君を迎えて話を聞きたいというのも、つまり、そういう気持のあらわれ――
友吉 いえ、とんでもない、すまないのは僕なんです。(司会者の言葉を全く正反対に取りちがえてあわてている)僕ですよ。あの、最後にケンペイに連れて行かれる時だって、運動場でみんなから、ぶたれたり、けられたりして……みんなの中にはくやしがって泣きながら僕をけってる人もおります……されながら、僕は、ホントにつらかったです。昨日まで仲よくいっしょに働らいていた人たちから、自分だけが人とちがった事を考えているために、こんなに怒られている。そう思うと、よっぽど、あんときに、エスさまを捨ててしまおうかしらんと考えたりしました。しかし、どうしても、そう出来なかったんです。ですから、みんなにすまないと思って、心の中で手を合せながら連れて行かれました。しかたがなかったんです。……
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(彼が正直に熱心に語れば語るほど、一同との間がグレハマになって行く。その事に友吉は気が附かない)
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声一 (客席の前部の中から)エヘヘ、ヘ、ヘヘヘ!
声二 (同じく)なあんだい!(この二人の調子は嘲笑――というよりも、ムキになって嘲笑するにもあたいしないものをヒヤカすように)
声三 しかし――(と、これは友吉をかばうように)あん時、みんなで蹴とばしたのは、ホントだからなあ。こんなふうになったからって、おれたちも、よく考えてみなきゃ、いかんと思うんだ。
声一 (ふんがいした激しい調子で)なにを考えるんだい!おれたちは今、ストライキに入ろうとしてるんだよ! ベンベンとして、こんな話を聞いている事あないと思うんだ!
声三 だけど、おれたちも人間だ。チットは恥を知らなきゃならんと思うんだ。片倉君のどこが悪いんだよ!
声一 悪くはねえよ。エスさまだよ、やっぱし片倉君は! 天にまします!(二
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