みんなで、よってたかって、迫害するという法はないじゃありませんか。……そりゃ、今、世の中がこんなふうになって、みんなが増産のためにシンケンになっている最中なんだから、そこいもって来て、あんな人があらわれれば、フンガイするのも、もっともじゃあるけど――いえ、私たちだって、こんな毎日夜業までして働いているんですもの、あなたの前だけど、チョット腹が立つわ、正直いって。……だけど、明という人にゃ、責任は有りゃしない。そうじゃなくって? そうでしょう[#「そうでしょう」は底本では「そうでしよう」]、治子さん?
治子 ……ええ。
静代 卑劣だと思うのよ、罪もない人を、おおぜいでイジメるの! 卑怯よ! みんな、卑怯だわ! それも、ホントウにシンから国のためを思って……つまり自分もホントウに国のために命を投げ出してかかっている人が、その事をフンガイするのなら、まだわかるけれど、たいがい、忠君愛国はおれ一人といったふうにノボセあがって良い気持になったり、人のオッポに[#「オッポに」は底本では「オツポに」]附いて、つまり附和雷同ね、そいでワーワーいっているのよ。私知ってるわ。ゲンに此処の工員の人に、ホントウに国のためを思って働いている人なんか、かぞえる程しきゃ居ないのよ。たいがい、しかたなしのイヤイヤながらよ。戦争のナリユキについてだって、そうだわ。もう、こうなったら負けたって勝ったって、どっちでもいいから、早くおしまいにしてくんないかなあ、というのが、たいがいの人のホントの腹の中だわ。カゲでは、みんなそういってる。それをしかし、口に出していうとしばられるもんだから、おもてむきは、忠義みたいな顔をしているんだわ。そうなのよ!
治子 …………
静代 ……(しばらくだまってから)だけど、なんだわね、また、考えてみると、みんなが腹を立てるのも無理もないとも思うのよ。そりゃ誰にしたって、こんな戦争――自分たちにはワケもわからないままにガヤガヤとはじまってしまって、つらい事ばかりの戦争なんか、早くなんとかならないかと思うには思うけれど、とにかく、はじまってしまった戦争、こんだけいっしょけんめいになって、たくさんの人を死なせて、ここまで来た戦争ですものねえ、負けたくはない、負けたらたいへんな事になる、それには、なにがなんでも、とにかく、みんな心をそろえてやりぬかなくてはならんという気持もウソじゃな
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