伝わっているかも知れんねえ。しかし、君あたしか、郡山――だったね? ――の士族――たしか、そうだったね? そういう家柄から、こんなふうな、とんでもない人間が、どうして出たものか? 明君の下に妹がもう一人居たね、たしか? フム。……まあまあ、なんだなあ、私の方も、よく心がけておくから、君の家でも、まあ、出来るだけ、友吉の事は世間にパッとしないようにして、この、キンシンしてだ。そいじゃまあ、今夜のところは……どうも、御苦労さまでした。……じょさいはないだろうが、今夜のことは私と君の間だけの話として、なんだ……そんなわけで明君の退職の……(そこへ、突然、奥から四、五人の足音がドカドカとあわただしく近づいて来る。お! といって課長が奥を見る)
奥の声 (ドアを三つ四つ叩いて)課長さん! 課長さん! 課長さん!
課長 なんだ、誰だ?
奥の声 旋盤部へ来て下さい。
課長 どうしたんだ?(立つ)
奥の別の声 片倉が、又、あばれているんです。
課長 なんだって?
奥の声 片倉の明ちゃんを、みんなが取り巻いて、この――
課長 よし、すぐに行く――(行きかけて、こちらを振向いて、義一を見る)ね? また、なにか、はじめたらしい。
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(その課長の視線に射すくめられて、義一のシルエットが、だんだんに前こごみに低くなって行く)
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3
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同じ工場内の仕上部の一角(クローズ・アップ)管制用の電燈のエンスイ形の光に照らし出された仕上台をはさんで、正面にこちらを向いて、人見勉の妹の治子と、向う向きになって背を見せた、その同僚の静代の二人が、それぞれ、流れ作業の台の上に押し出されて来る小さい長方形の金属ブロックを仕上台に取りつけてあるミクロメータアに当てがって見ては、合格品と不合格品を別々にキチンと積みあげて行っている。動作は器械のように正確にすばやい。正面を向いて明るく照らし出された治子の表情は、どんなに小さい所までもハッキリと見られるが、語っている静代は向う向きの逆光のため、ボンヤリと大きなシルエット。(前場の課長と義一の関係を逆にしたものである)作業のリズムとテンポには無関係な低いトギレトギレの言葉。
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静代 ……だってそうじゃないの、なにも弟さんに責任の有ることじゃないわ。それを、
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